頂を目指す二ノ姫V

□邂逅
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「その先生、多分俺の主治医だ………
あんまり好きじゃないんだよね………俺」

『…確かに、ちょっととっつきにくいというか………』


桜も苦笑すると幸村もおかしそうに笑う
その様子に桜は目を細めた
いつの間に、彼はこんなに淡い印象になったのだろう
テニスをしていた頃はもっと生き生きとしていて、鮮やかだった


『(……3月に会った時より弱々しく見えるし…
………それにこの霊圧…)』


思案気に揺れる桜の目に気付いた幸村は安心させるように笑った
大丈夫だ、と桜に伝えて来る
幸村は静かな声で言った


「実はね、あの人に………
もうテニスが出来ないって言われたんだ」

『!!』

「まぁ言われたというか…
先生は俺が寝てると思ったらしくてね
看護婦さんにそう話してたんだけどそれを俺が聞いてしまってね」


衝撃の告白に、桜は目を見開いて絶句した
胸の下あたりがスッと冷えて身体が小刻みに震える
徐々に青くなっていく桜の顔色を見た幸村が慌てて桜の手を握った


「大丈夫だよ桜。俺もそれで弱気になったんだ
真田に当たっちゃったしね」

『…………弦一郎に当たって…どうしたの?』

「うん。そしたらね、あいつ何したと思う?」


質問を質問で返され桜は眉根を寄せる
考えては見るが、しっくりくるものはない
無難な答えと言えば、怒るぐらいか


『………何だろ……弱気になるなって………怒鳴ったとか?』

「ハハ。さすがに見抜く者でも分かんないか」


軽快に笑った幸村は実はね、と顔を近づけた





「あいつ、俺に鉄拳制裁したんだよ」





『…は……………』


真田の鉄拳制裁とはその言葉通り
裏手や平手で殴りつけることである
あえて殴りつける、と表現するのはそれほどの威力だということだ
桜はその威力を主に赤也で知っているので口元を引き攣らせた


『…まさか病人を殴るとは……思わなかったわ』

「フフ。俺も驚いたよ
でも蓮二と柳生が叱っててそれは面白かったな」

『ああ。確かに』


柳も柳生も怒鳴りつけるタイプではない
懇々と静かに諭す2人とそれを黙って聞く真田の構図は何とも笑いを誘う
きっとそれを見て赤也や丸井、仁王は隠れて肩を震わせていたことだろう


「でも、真田のおかげで手術を受ける決心がついた
それに桜にも勇気をもらったんだ」

『え?』


幸村はにっこりと笑って空を見上げた


「憶えてるかい?
俺の誕生日にわざわざ病室に来て、プレゼントをくれただろう?」

『…ええ。憶えてるわ』

「あの時貰った写真がさ、俺に語りかけて来るんだ
“ここに戻りたくは無いのか”ってね」

『………』


桜が幸村にプレゼントしたもの、それは立海の部活風景だ
仲間の部活姿を見せたくて桜が撮りに行ったのだ
それを幸村は病室にしっかりと飾ってあったりする


「あの写真にはみんなの笑顔と、桜
君の優しさが詰まってる。そう思えるんだ
だから俺はまた、あの場所に戻るために頑張れるんだ」

『精市…』


あの写真を渡した後、桜は後悔した
自分が出来ないことをしている彼らの写真を見て、絶望しないかと
彼らのことを憎くはならないのかと
幸村もしっかりしてはいるが中学生なのだ
まだ感情のコントロールが未熟で当たり前だ
だからこそ後悔した

しかし、幸村という少年は桜が考えているよりもずっと強かった
そのことに桜は言葉が出ない


『(……ごめんなさい精市………
貴方のそれはきっと………治るから…
……歪みなんか………起こさせやしない)』


例え何を犠牲にしても、それだけは思う
きっとも同じ気持ちだろう
すると幸村はドアに顔を向けた


「それにしても真田達遅いな
もうそろそろ来ても良い頃だと思うんだけど」


そう幸村が言うのと同時に桜はドアに視線を向けた
向かって来る気配が一つ



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