頂を目指す二ノ姫V

□邂逅
4ページ/7ページ




『弦一郎!私も行っていい?』

「それはかまわんが…」

「だがなぜだ?」


訊かれて桜は真顔になった
心臓が打ちつけて来るのがわかる

これは立海の問題だ。自分が首を突っ込むことではないと分かっている
それでも何かが桜に訴えかけているのだ


『……行かなきゃ…いけない気がするのよ』


柳生が眼鏡を押し上げて言う


「勘…ですか」

「…桜の勘は当たるぜよ」


仁王の言葉に真田は一瞬考えた後頷いた


「そうだな。わかった。行こう」

『ありがとう。じゃあごめんね精市』

「かまわないよ」


儚く笑う幸村に微笑を浮かべて桜は階段へと向かう
同じように走ろうとする真田を幸村は呼び止めた





「…真田。苦労をかける」





その言葉に帽子を下げ、幸村に背に真田も走り出す
桜は隣に追いついてきた真田にニッと口の端を上げた
幸村の言葉には真田への信頼が見てとれたからだ
しかし柳が追いついてきて桜に言った


「ところで許してしまったが、体調は大丈夫なのか?」

「そーいや、走っちゃだめなんじゃねぇ!?」

『大丈夫よ。これぐらい訳無いわ!』

「たわけ!」


任せなさいとばかりに速度を速めると真田が一喝した
隣に並んで腕を掴む


「病み上がりだというのに無理をする奴があるか!」

『だから無理してな…』

「そういうことは倒れる前に言わなければな」

『………仰るとおりです』


柳が目を開いたのを見て桜は速度を緩める
真田の喝はやり過ごせても、柳の開眼は何も言えない










そのうちにテニスクラブに到着した
立海テニス部の中でも体力が無いのは丸井だ
しかしその彼も息が乱れているということは無い
王者の練習量をなめてはいけない
これよりももっと厳しいトレーニングを積んできたのだから
しかしそれにしても驚くべきは


「(桜だろぃ
俺達と走って何ともない表情ってすごすぎ
さすがじゃん)」


真田の隣を走る(真田が隣を走っているとも言える)桜には汗さえも見えない
そのことに丸井と同じく感心した柳は後ろを振り返って言う


「赤也の目…充血してるそうだ」

「不動峰戦の時に見せたアレか―――――」

『充血?』


何のことか分からない桜は首を傾げる
真田がうむ、と頷いた


「赤也の目が充血すると、身体能力が上がり、攻撃的になる」

『………それがさっきの…』

「ああ」


桜たちは赤也がいると思わしきコートに辿りついた
周りにはテニスクラブの会員らしき人で人だかりが出来ている
コートはフェンスがマットのようなもので遮られていて中の様子が分からない
真田は慎重にフェンスに手を掛けた


『えっ………なんで………』


真田がフェンスを開けると、目の前に人影があった
それは赤也ではなかった

小柄で帽子を被り、猫目が特徴の





『リョーマ……』





そこにいたのはリョーマだった

赤也が試合をしていたと思しきコートから出てきた、つまり赤也の対戦相手だ
真田とリョーマは睨み合っていたが、つぎの瞬間リョーマが前のめりに倒れ込んだ
支える真田はリョーマを無表情に見下し、桜は慌てて近寄る


『リョ…リョーマ!』

「オイオイ赤也。こんな時期に何てことを!?」

「それも青学の選手!?桜の後輩じゃん!」


柳生は桜の慌てぶりを見て静かに口を開いた


「可哀想に…至急病院へ連れて行くべきです」

「柳生、桜…よう見てみんしゃい」


仁王がそう言い桜はいまだ真田に支えられているリョーマを見下す
このルーキーは、健やかな顔をして寝息を立てていた
桜は一瞬目を疑った


『え…ちょっとリョーマ?』

「お、起きたまえ」

「ククッ。さすが桜の後輩じゃ」

『…どういう意味よ』


含み笑いをする仁王にジト目を送った桜は、外へと目を向けた



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ