夜空を纏う四ノ姫2

□嵐の守護者の対決
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中山外科医院
ランボの入院しているその病室の前で、桜は立ち尽くしていた
何度も部屋に入ろうとするが、身体が硬直して動かない


『(……何を今さら…………ランボを戦いに向かわせたのは私なのに…)』


塗り重ねられた罪
それが重いと感じるのは久しぶりだった
中から聞こえてくる穢れの無い彼女たちの声を聞いていれば尚更
自分と言う存在がどれ程罪深い存在なのかを突きつけられる

元々はいらなかった存在

自分が此処に居るのはイレギュラーである
それなのにここに存在しているから、歪みが出ないか心配で
現れた歪みに泣き崩れて
そんなことの繰り返し

その避けらざる運命に<彼ら>を巻き込んだせいか、心を軽くして
でも、それは間違っていたのだ


『(ごめんね、ランボ
いくら歪みを気にしていたって、あなたが傷つくことは避けられなかった
そしてどんなにあなたが傷ついても助けなかった私は、本当に………)』


ドアに手をついて、目を瞑る
ごめんなんて、陳腐な言葉は吐くだけで罪なのだ


『(……こんな顔で、入れないわね)』


なんて言い訳をして、ランボと向き合うことを先送りにした
桜は踵を返し、病院を後にした
























「ちくしょー!」


獄寺は一人肩をいからせて廊下を歩いていた
シャマルに戦い方を自分で考えろと言われ、日吉にも自分を知れと諭され
しかし考えていても一向にまとまらない考えに獄寺は頭を抱えていた
それを見てシャマルから気晴らしに行けと命令されたのだ


「(こんな事してる暇なんざねーってのに)」


己の戦いは今夜
だというのに手詰まりで、いい結果は出せていない


「10代目の右腕として、なんとしても勝たなきゃなんねーってのに」


そう眉間にしわを寄せた獄寺の耳に、柔らかい声が入ってきた


『随分と酷い顔してるわよ、隼人』


病院を後にした桜は学校に寄った
どうしても今日戦う獄寺に会いたくなったのだ
そして前から歩いてくる獄寺に、そう声を掛けていた
獄寺は優しい桜の笑顔に一瞬言葉が詰まるが、顔を背けた


「うるせー」

『…修業、煮詰まってるのね』

「!!」


静かに言い当てられ獄寺はカッとする
しかし桜の表情には嘲りも揶揄する表情も無く微笑んでいるだけだ
獄寺は毒気を抜かれて立ち竦んだ


『焦れば焦るほど、悪い方向に向かって行ってしまうわよ』

「…わかってっけどよ…………
俺は10代目の右腕だ。醜態なんかさらせねぇ…」


拳を握り締めて獄寺は桜を見た


「俺の対戦相手…ヴァリアーでも一番の天才なんだろ?」

『………シャマルが言ったの?』

「ああ」


獄寺が戦う相手はどこかの国の王子
そして類稀なる戦闘センスを持つベルフェゴール
その戦闘スキルは幼少の頃よりずば抜けていた


『少しの間しか私は知らないから何とも言えないけど…
彼の戦闘能力は目を瞠るものがあるわね』

「(………桜がそこまでいう人間)」


自身がかなりの戦闘能力を有している桜は他人の力に対してそれほど興味が無い
その桜が素直に驚くほどの実力
それなのに、自分はまだ打開策も見えず、これと言った手立ても無い
獄寺の表情が歪んだことに気づいて桜は思わず獄寺の頬を抓んだ


「なっ……!!」

『(あっ、やっちゃった…けどまぁいいか…)
何辛気臭い顔してるの
相手がベルだからって怖気づいたの?』


「そ、そんなことあるわけねーだろ!!」

『じゃあ自分で何も思いつかないから不貞腐れてるの?』


桜は顔を真っ赤にさせる獄寺から手を離して肩を落とした


『そんな顔、隼人らしくないわよ
貴方はいつでもツナのあとを笑って追いかけていればいいでしょう?』

「…………だがよ…」

『自分に何が一番必要なのか、考えてみなさい
きっと分かるわ』


桜は獄寺に背を向けて歩き出した
獄寺はその背中を見続ける


「(…まさか………様子を見に来てくれたのか)」


向こうから歩いてきた彼女が道を戻っている
それを見て獄寺はふとそう思った

いつも少し距離を置いたところに居るように思えるが、その実しっかりと見てくれている
それは日吉にも言えることだが


「……俺が一番必要なもの……………」


掌に視線を落として獄寺は保健室に踵を返した
その背中を、祈るような目で桜が見送っていた



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