頂を目指す二ノ姫V
□因縁
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桃城は険しい表情で柳を目で追った
「前半乾先輩のプレイを観察し
自分のデータを確信してから一気に反撃に出やがったのか」
「……」
『それだけじゃないわ』
「うん。柳君は乾のデータテニスそのものを崩そうとしている」
不二も桜と同じ結論に至ったらしい
静かな目で柳と乾の試合を見つめる
桜も、徐々に焦りをにじませる乾を視界に収めた
「(狙い球がことごとく返される!何故だ何故なんだ?)」
『(貞治…)』
忍足、そして氷帝も柳のプレイに驚嘆した
彼の無駄の無い動き
どこをとってもまさに王者の名に相応しい
「…別格やあの男
伊達に1年の時から幸村・真田らと立海を全国優勝に導いてへん!」
柳は肩で大きく息をする乾を見た
どこまでも冷静で、内心を悟らせない雰囲気
「確かにお前は俺に関する完璧なデータを取ってきたようだ
…がしかしそのデータが逆にお前を束縛している
お前にデータテニスを教えたのは誰だったかな!」
「《ゲーム柳3−2!!》」
ついに逆転を許した乾はコートに膝をつく
桜も、リョーマも厳しい表情を浮かべた
だが、ここで終わらない。彼らはきっと
「名残惜しいが宴はおしまいだ」
「ふ…ふふふ。そうか
お前も本気だったって事だな…教授」
教授。それは乾が呼ぶ柳のあだ名だ
乾のことを柳は博士と呼ぶ
それが意味することは
『(過去への回帰……か…好きになさいな、貞治)』
乾の覚悟を受け取った気がした
だから桜は鬼気迫る表情を浮かべた乾に仄かに笑いかけた
もう、心配するのも、不安に思うのも止めようと思う
どんな結末が待とうとも、歪みが表れようとも
それを受け止めるだけ、抗うだけ
それだけの覚悟はするべきで、もう出来る筈だ
「(俺のデータテニスが全て読まれていると言うのなら…俺は…
俺はたった今からデータを捨てる!)」
その乾の考えを感じ取った柳は至極冷静だ
何より、彼には油断など毛ほども存在しない
「自分のプレイスタイルを捨てた者に勝利は無い」
「(勝負あったな…)」
乾の頭上を越えようとするボール
しかし乾は諦めない
「先輩っ!?」
「ぉおおおおおおおお!がぁっ!!」
乾の渾身のジャンピングスマッシュが柳のラケットを吹っ飛ばした
眼鏡の隙間からのぞく瞳にはかつてないほどの闘志が浮かぶ
「そして俺は過去を凌駕する!」
→atogaki