頂を目指す二ノ姫V

□リョーマがゆく
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「《チェンジコート!!》」



コートから出た真田は呆然とベンチに座っていた赤也に声をかけた


「どうやらお前も思い出した様だな」

「へへへ…」

「あれが『無我の境地』と言うヤツだ」


真田は楽しそうに笑みをこぼす赤也にそう言った


「…まさか俺にそれを思い出させる為に」

「自惚れるなこのたわけが」

「…うぐっ」


赤也の言葉を切って捨てた真田は不意に桜を見つめた
不審そうに目を細める
彼女はキュッ、と唇を引き結んでいた


「(それにしても桜……言っていないのか?)」


彼女がいて、どうしてこんな事態になっているのかは分からない
だが、真田に分かる事は彼女がリョーマに何も説明していないという事
『無我の境地』というものがどれほどのものかという事を


「(…言っても意味は無い…そういうことか……?
まぁ何を考えているか知らんが…徹底的にやらせてもらうぞ、桜)」


フッと笑った真田は赤也たちに背を向ける帽子を被り直し、静かに言った


「『無我の境地』…とんでもない代物だ…だが





本当に見ておかねばならんのはここからだ!





コートに立った2人。次のサーブは真田だ
真田は空にボールを放ち、豪快にサーブを打った
それをラケットを両手で持ったリョーマが返す


「いっけぇぇ――っ!!」

「グレイトーッ俺の両手波動球!!」


強烈な打球を物ともせず真田も打ち返す
次にリョーマはその球をラケットのスイートスポットから外して打ち返した
聖ルドルフ赤澤のブレ球だ

真田を押し始めたリョーマ
しかし、青学レギュラーはここで気がついた
リョーマを襲っている異変に

不審そうに大石が口を開く


「…………おかしい。まだ試合が始まったばかりなのに





越前の異常な汗…





リョーマはもう汗だくだった
まるでマッチポイントまで試合が進んだかのようだ
それを見た真田と桜はとうとう来たそれに目を細めた


「(いよいよ来た様だな。『無我の境地』の副産物が―――)」

『(「無我の境地」は脳からの伝達では無く
イメージとして焼き付いたものを身体が直接反応して動いてしまう
極端に言えば、さっきの周助と同じこと)』

「(本来出来ないものを限界を超えた所でやっているのだ
その反動としてもの凄い体力を消耗する
―――――そして





それは一気に身体に襲い掛かる――)」





リョーマはいきなり膝からコートに崩れ落ちた
一気に疲労が襲って来たのだ
桜はギュッとリョーマのジャージを握り締めた


『(私が言わなかったのは………
「無我の境地」を使わなければ…
弦一郎に万に一つも勝機が無いと考えているから、なんて…
リョーマが知ったら…怒るかしら…嫌われるかしら、ね…)』


ただ、桜ははっきり言えば天才というものを信じた事は無い
確かに言葉としては使う
だがその裏に隠された存在を理解しているからこそ使っているのだ
それは不二であっても、氷帝の天才である忍足にしても同じ事
血の滲むような努力に触れて来たからこそ、その言葉を使える
それは桜自身が死神として修練を積み
覚悟をしてきたからこその考えだった

だから、リョーマにしてもそうだった
真田の努力と覚悟を知っているから
リョーマの努力と想いを知っているから
だから、経験の差という点でリョーマは真田に敵わない。そう見てしまう
何より、自分が『無我の境地』の弱点を教えたとする
しかし結果として乗り越えなければならないのはリョーマ自身

だから桜は、確認をしただけにとどめた
きっと後悔すると分かっていながら


『(本当、私は後悔が好きね…)』


荒い息を吐き、疲労に顔を歪ませるリョーマ
それが胸を締め付ける


「どうした。もうおネンネか?」

「にゃろう」


何とか起き上がるリョーマ
そんな彼に真田は低い声を発した


「ところでお前。風林火山の『風』…
破ったつもりじゃあるまい」


ボールが真田に向かって行く


「本当の『風』はさっき見せたものより…






3倍疾いわ







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