頂を目指す二ノ姫V

□人間らしさ
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『…今、私が行くのは違う気がするの』

「しかし……幸村は…お前を待っているだろう」

『いいえ。精市が一番待ってるのは、貴方たちよ』


仲間のことを待っている
手術を終えて目が覚めた時、視界に映したいのはきっとこの仲間なのだ


『私はまた今度見舞いに行くわ
だから精市にはそう言っておいて』

「お…おい!」


言いたい事だけを言って、桜はすぐさま踵を返し真田に背を向けた
あまりに淡白な桜の様子に真田は呆然とする

今まで、こんなにそっけない態度を彼女がとったことがあっただろうか
例えライバル校だとしても、然程接し方を変えなかった彼女がまるで別人のようだ


「(………お前は……幸村が心配ではないのか…?)」


それはないと分かっている
病気に臥せる幸村をいつも心配していたのは紛れも無く桜だ
しかし、今の態度には訝るばかり

すると、仁王が神妙な顔をして真田の横に立った


「…なんじゃ、桜の奴。随分と暗いのう」

「仁王…」

「じゃがああ言われると不安が消えるな」

「……む?」


仁王の言葉に眉間にしわを刻んだ真田を、柳が笑った
後ろでは赤也と丸井も不可解な顔をしていた


「なに、桜は今度見舞いに行くと言っていた
つまり、精市の手術が成功していると信じて疑っていないのだろう」

「だからあんな言葉が出たぜよ」

「!!」

「ああーっ!!」

「成程な」


真田も、言われてみればと頷いた
遠まわしだが、彼女の心が分かった気がした
誰よりも、桜は幸村のことを信じていたのだ


「桜さんには頭が下がりますね」

「ほんとだな。……でもよ…………
なんであんな…辛そうなんだ?」


桜が歩いていった方向を見つめるジャッカル
柳も微かに双眸を開いた


「…ああ。青学が優勝したにもかかわらず、あの様子は少し変だな」

「…………なんか……桜さんが消えちまう様な気がするっス」


小さな赤也の呟きに、真田たちはどこか、心の奥底で頷いた























深夜
桜の部屋に来客があった





「………精市様の手術は、無事に成功いたしました」





黒い着物に身を包み、腰には斬魄刀を差した出で立ち

初瀬栞は桜の目を見つめてそう言った
桜は、全身の息を吐き出すかのように深いため息をついた


『そう…』

「まだ断定はできませんが
このままリハビリを続ければ、全国大会には出られるでしょう」

『………よかった』


桜は栞から視線を外し、窓の外を見た
暗闇を照らす光。今はそれが苦しい
いっそ何も分からない程暗ければ良かったのに


「……どうかいたしましたか?」


静かな問いに、桜は答えなかった
しかしそれは予想していたようで、栞は目つきを鋭くさせて再度問うた




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