頂を目指す二ノ姫W

□迫る刻限
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六角との合同合宿も終え、気付けば全国大会まで10日も切っていた
そんな時、桜は全国大会の開催地について考えていた


『(今年の開催地は……東京…か………)』


何の巡り合わせか、最後を飾る舞台が東京だ
多分変わることはない
そこで浮上する開催地区の推薦枠1校の存在
恐らく出てくるのは


『(……氷帝…………かな…………)』


関東優勝を果たした青学に負けた東京圏の学校
なおかつ実績のある学校と言えば氷帝ぐらいだ
主催者側が選ぶ妥当なところだろう


『(………景吾のことだから、何かやってくれそうな予感がするのよね…)』


長年付き合ってきたカンか、そんな気がひしひしとする
まだ開催地区枠の発表はされていないが近々されるだろう
その時、彼がどう出てくるか


『………』


桜はおもむろに携帯を見た。着信はない
そのことに無意識のうちに溜息が出る


『(…国光………)』


彼からの連絡が来ない
関東優勝を果たしたことは伝えたが、どこかそっけなかった
それから、連絡は無い

自分のことで精一杯で気付かなかったが変化はあった
決勝が始まる前からずっと、彼からの連絡は少なくなってきていたのだ


『(………何か…あったのかしら………)』


普段寡黙な彼はメールもマメな方ではないし、電話でも黙り込む事が多い
それでも、桜には他人よりも饒舌にしっかりと話をしてくれる
精神的に大人な手塚とのそういったやりとりは桜も安心したし、楽しいのだが
来なければさらに寂しい


『(……なんて素直に思えるようになったのねぇ…)』


これは進歩と言うべきなのかは定かではない
だが、明らかに栞と話してから心の持ちようが軽くなったのは事実だ
隠さなくなったと言うべきか
変に大人ぶらなくなったといべきか(いや、本来は限りなく大人だが)

かつての仲間が見たらどう思うか
多分驚くだろう
こんなにも人間くさくなった自分に


『…………』


座っていたベッドから立ち上がって、箪笥の前に立った
一番上の引き出しを開ければ、丁寧に畳まれた青と白が基調のジャージ
広げて見れば、それは桜が着るにはかなり大きい

九州に出発前に手塚に託された、彼のジャージである

持ち帰ったその日に丁寧に洗って、そのまま箪笥の中に仕舞った
それから出された事は無い


『………治療が上手くいっていないのかしら…』


そう考えるのが妥当だ
だとしたら、こちらから連絡をするのは躊躇われる
気長に、待つしか出来ない
桜に出来る事はない
そこで、もう一人部長の顔が浮かんだ


『………そうだ…精市』


こちらは手塚と違って今からでも行こうと思えば行ける
それに、真田には見舞いに行くと言っておいて、まだ一度も行っていない


『…………』


今日は自主練が主で、桜は家に帰って来ていた
勿論ドリンクなどは用意しておいたが

これから暇がないだろうという予測の元、家の整理をしておきたくなったのだ
段ボール箱が1つ。部屋の隅に置かれた


『……………よし』


こういう時は柳に連絡をするに限る
真田ではタイムラグが大きそうだ




………………ピ




トゥルルルルルルル…




1コールもしないうちに電話が繋がった


『………あ。もしもし。蓮二?』

「“桜。珍しいな。機械が苦手なお前が電話など”」


含み笑いをしているような声音に桜は口を尖らせた


『…いいでしょ別に。というか、最近は結構出来るようになったのよ』

「“フ。そうか”」

『あ、今大丈夫?』

「“ああ。構わない。今は休憩中だ
それで要件は何だ?”」

『ああ、うん。実は』

「“<―精市のお見舞いに行きたい>とお前は言う”」

『…言ってくれてありがとう』


言い当てられ、なら聞くな、と思ったのは言うまでも無い
肩を落とした桜に柳が淀みなく言った


「“俺達は行かないが、今日なら恐らく検査も無いので会えるだろう
リハビリをしているはずだ”」

『そうなの。ありがとう。なら行ってみるわ』

「“精市も喜ぶだろう”」


その後軽く話をして、桜は電話を切った
鞄を引き寄せて携帯や財布を中に突っ込む


『それじゃ、早速行きますか』


桜は急いでマンションを出た



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