頂を目指す二ノ姫W

□1日目A
1ページ/4ページ




広間で解散し、桜は部屋に戻った
忘れてはならない物を忘れていたのだ
バックから慌ててウサギの形のケースを取り出しポケットに入れた


『………使う時が来ないことを祈るけど………』


それでも、来るかもしれない時の為に

ギュッと力を込めてそれを握る
ふと、机の上に出しっぱなしにしてしまったジャージを視界に映す
自分のものよりも大きいそれを手にとって広げた

持ってきたのは気まぐれだった
もしかしたら合宿中に
そうでなくても抽選会までに、彼が戻って来てくれるかもしれない
そう思ったからだ
だからすぐに渡せるように
彼に早く袖を通してもらえるように
つい持って来てしまった


彼の帰りを、殊の外望んでいるのだ私は


小さく息をついた桜は、どうしようもないその想いに頭を振った
クローゼットの中のハンガーにジャージをかける


『(………連絡は来ない…か……………)』


すると、廊下を歩く気配がした
それは近づいてきて、部屋の前で止まった
見知った気配に視線を向けると、ドアをノックする音がする


『はい』

「…あの……橘です…」

『杏ちゃん?』


訪問者に驚きつつもドアを開けると、杏が暗い表情で立っていた
先程の控えめな声といい、いつも明るい杏のその様子に怪訝な顔をする
杏は目を伏せ、両手を握り締めていた
どこか耐えるような表情が見え隠れしていたが、意を決したように顔をあげた
そして、小さな声でぽつりと言った





「……あの…桜さん……
図々しいとは思うんですけど…あの………」





『………』





桜は険しい表情でそれを聞いた























コートは忍足の言った通り12面もあった
その一角に集まった選手達に桜は声を張り上げた
彼女は青学のレギュラージャージを羽織り、髪を一つに結えている


『それじゃあ今日は不動峰と六角を見るから
その2校は一番手前のコートに集合
マネージャーは杏ちゃんね
真ん中4つは氷帝と立海で、栞ちゃんが見て
奥は青学と山吹で、桜乃ちゃんと朋香ちゃんにお願いするわ
各自配った練習方法+各校の練習をしてください
それじゃあ解散!』


散らばる彼らとは違い、幸村は首を傾げた


「桜。俺はどうすればいい?」

『そうね…。あ、体調は?』

「大丈夫だよ
なんか桜が来てくれた日からやけに身体が軽いんだ」


その幸村の言葉に内心安堵した
桜のしたことの効果はあったらしい
代わりに桜の体調はあの日最悪だったが

しかし、幸村の柔らかい笑顔が見られたのなら別にいいか、という気になる
本当に大丈夫そうな幸村に桜の頬は緩んだ


『そう。なら私がすることをメモしてくれる?
それで記録つけるの手伝って』

「うん。わかった」


快く頷いた幸村とともに、桜は不動峰と六角を集合させた


『それじゃあまずはダッシュかな
基本からみっちり見ていくから手を抜かないように』

「はい」

『精市はこの紙に各自の記録をお願い』

「分かったよ」


幸村は柔らかく笑って桜から紙を受け取った
桜はあ、と思い出したように言って幸村を見る


『明日は氷帝と立海のつもりなんだけど、その時は精市も全部入っていいから
体調にさえ気をつけてくれたらね』

「うん。分かった」

『勿論、今も入りたくなったら言ってね』

「ああ。そうさせてもらうよ」


柔和に笑った幸村に満足して、桜は声を張り上げた




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ