頂を目指す二ノ姫W

□1日目D
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部屋の内装の豪華さに相応しく、浴室も完備されていた
他にかなり豪奢な大浴場もあるのだが
桜は誘って来た朋香と桜乃に申し訳なく思いながらも部屋のを使った
恐らく栞もそうだろう


『(……………流石にこんなのあったら入れないわ…)』


手早く風呂に入り、滴る滴を拭いながら鏡の前に立って苦笑する

大抵の女が羨む白い肌
そこに不釣り合いな引き攣ったような傷跡
左の脇腹に走るその傷跡は見ていて良い気分のするものではない
年頃の娘ならば尚更だ
だからこそ風呂にも一緒に入らなかったし
海に行った時も水着にならなかったし、プール学習も避けていたのだ


『(……最近、よく疼くわ…………)』


ゆっくりと傷跡を撫で、桜は目を瞑る
嫌な光景、音声。今でもはっきりと思い出せる
もう自分達以外誰も知らない、その出来事を


『(…………やめよう…今は…)』


頭を一つ振り、寝巻代わりに持ってきたTシャツと短パンに着替えた
鏡に映ったまた違う自分に目をぱちくりとさせる


『(家では浴衣だからちょっと新鮮かも……)』


Tシャツを抓んでそんなことを思った桜は、タオルで髪を拭き、乾かした
髪が長い為にかなり時間がかかり、浴室を出た時にはもう約束の時間だった


『おっと…行かなきゃ
英二達待ってるだろうし』


テーブルの上に置いておいた今日の練習のまとめや練習方法
そして個人別の問題点や改善点をメモしたノートを持って多目的室へ向かった


そこには、桜が予定していた人数の倍以上の人がいた
ちらほらと頭を抱える姿が見える
昼に言っていた六角、それから氷帝の姿もあった


『……あら?』

「あっ桜!!こっちだよ〜ん!!」


菊丸に手招きされて近寄れば一つのテーブルに菊丸と桃城とリョーマに裕太
そのすぐ近くのテーブルに赤也と丸井と真田と柳が座っていた


「よろしくお願いします桜先輩!」

「お願いします」

『ええ』


そう返しながら桜は軽く眉を寄せる
室内はどこか険悪な空気が漂っているように思えた
まぁ大会で勝敗を分けた者や個人的に確執がある者がいるからもあるだろう
だがこれはそれだけではなく、別のテーブルのせいだ
迸る怒気、怒れる背中
わなわなと身体を震わせる真田の目は完全につり上がっていた


『…随分お冠ね……』

「ああ。桜が来る前に始めさせたのだが、一向に進まなくてな
1年生の範囲まで分からずじまいで」

『あ〜。なるほどね』




「たわけ!!なぜこの問題が分からんのだ!!!」




「ヒィィィィ〜」


多目的室一杯に広がる真田の怒声
リョーマは盛大に顔を顰め、裕太は居心地悪そうにしていた
柳が眉を下げて肩を落とす


「先程からこの調子でな」

『……弦一郎は失敗だったかもね…………』


赤也の監督に適任だと思ったが、周りの迷惑を考えるべきだったようだ
菊丸達も嫌そうな顔をしているし、このままにしておくわけにはいかない
桜は困った顔をして真田に声をかけた


『弦一郎』

「む。来ていたのか桜」

『(私に気づかないほど怒ってたのね…)
そんなに頭ごなしに怒っても仕方ないでしょう?』

「さ、桜さん……」

「うむ。しかしだな…」

『それに、貴方たちだけならともかく他にも人が居るのよ。怒鳴らない』

「………そうだな」


案外静かに退いた真田は、深く息を吐いて目を瞑った
周りの空気に自分がどれだけ迷惑をかけたかを理解したようだ
すぐ直情的に怒ってしまいがちな真田だが
それでも自分を省みる余裕を与えられるとその態度を反省できる
それでも赤也を怒鳴る回数は減らないのだが

目を開いた真田は低く、冷静な声音で赤也に言った


「………ならば赤也
まずはこの問題を、ここを参考にして解いてみろ」

「…え」

『ほら赤也。ペンが止まってるわよ
弦一郎の言った通りに解いてみなさい』

「は、はい!!」


ペンをとった赤也は問題集にかじりつく
しかし一向に動かない赤也の手に真田は更に言う


「…単語が分からなければその部分は空白にするか
もしくはスペルが違ってもいいから書いてみろ
だが、文章の構成や分詞には注意して書け」

「はい!!」

「(…ほう。流石だな)
丸井。この問題の解が違うぞ」

「(あの真田が静かに教えてんだけど…)
ってうわっ!マジかよ!!」


静かに赤也に向き合い始めた真田に赤也も止まっていたペンをぎこちなく走らせた
桜はそんな2人を優しく見た後菊丸と桃城たちの前に座った
柳は桜を感心しながら丸井に間違ったか所を指摘する



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