頂を目指す二ノ姫W

□2日目B
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桜は単純に感心していた
鳳のスカッドサーブのフォーム
関東大会の時には手首をこねる癖があったというのに、今では


『(ほとんど分からない…)』


明らかに弱点を克服して来ている
その向上心に桜はフッと笑った
恐らくあの関東大会からずっと練習し、努力を重ねていたのだろう

隣に立っていた宍戸がそんな桜に怪訝な顔をする


「なに笑ってんだよお前」

『ん?長太郎の向上心は凄いなって』

「??」

『癖、直してるんでしょ?』


そう言えば、宍戸はああ、と笑った
帽子を被り直す


「関東大会で乾に指摘されたようなものだからな。そりゃ直すだろ
奴らに言ってもいいと思うぜ
きっと長太郎は気にしねぇ」

『言わないわよ。言わなくても分かってると思うわ』


ここにいる者たちは皆、向上心と諦めの悪さの塊だ
高みを見上げるだけでなく、一心不乱に登って行く
落ちそうになっても腕一本でも食らいついていく
本当に頭の下がる思いだ
だからこそ彼等の一つ一つの戦いが心を震わせるものになるのだろう

最初から最後の最後まで、彼等は登って行くことしかないのだ


「まぁ、長太郎も強くなってんだ。俺も負けてられないぜ」


後輩の頑張りは先輩を刺激する
爽やかに笑った宍戸はコートに向かって行った
桜はその背中に頼もしさと脅威を見た


『(本当、凄いダブルスになったものね…)』


元々シングルスだった宍戸
しかし橘に負け、鳳とダブルスを組むようになり、彼は変わった

強くなった
それは技術力だけの問題では無い
コートの中に後輩がいる
その想いが宍戸のメンタルを強くしたのだ

後輩の前で、負けられないという思い

勝利への執着

その全てが、宍戸のプレーを強くした


『(やる気満々ねぇ…亮と全国当たったら本当に厄介だわ)』


闘志漲る彼を見送りそんな事を考えていると、入れ替わりに跡部がやってきた
微かに汗を滲ませている彼は桜の前に立ちこう言った


「桜。俺のサーブを見てくれ」

『あら。景吾から言ってくるなんて珍しいわね』


そう言えば、跡部は変な顔をしてラケットで桜を小突いた
桜は思わず片目を瞑る


「何言ってやがる。お前は今コーチだろうが」

『分かってるって
ただ前は頑なに自分から言おうとしなかったじゃない』


跡部は悪戯っぽい桜にバツが悪そうな顔をした
視線をずらして軽く舌打ちする
すると桜の背後から柔らかい声で幸村が言う


「そりゃあ桜にカッコ悪いところを見せられないからね」

「…幸村」

「間違ってるかい?跡部」


目を細めた跡部に幸村が笑みを向ける
跡部は今度こそはっきりと舌打ちした


『あら精市。練習は?』

「さっきまで参加してたんだけど、少し休憩しようと思ってね」


まだ病み上がりの幸村に長時間の練習は危険だ
この合宿もリハビリの一環として参加しているから彼の判断は的確だ
跡部は眉根を上げる


「確かに顔色が悪いな。木陰で休んでろ
なんなら部屋に戻るか?」

「いや、少し休むだけにしておくよ
それほど悪いと言う訳じゃないし
それに全国まで、もう後少しだからね」


深い色をした目を伏せた幸村は、桜と跡部を促した


「だから俺のことは気にしないで、サーブ練習に行ってくれ」

『そう。それじゃああそこのコートでやりましょうか』

「ああ。幸村も暇なら見ててもいいぜ?」


その申し出に幸村は虚を突かれたように目を丸くし、クスッと笑った
まさか敵校である自分をそんな堂々と誘うとは思わなかったのだろう


「ははっ。跡部らしいね」

「別に見られて困る事でもないからな
それに、お前らにはこの間世話になった借りがある」

「ふふっ」

『…借り?あぁ。景吾が立海に乗り込んだって話?』


跡部は眉間にしわを寄せて桜を見下した



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