夜空を纏う四ノ姫3

□裏切りの姫君
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「お……前………」

『喋らない方がいいわよγ。傷に障るわ』


辛うじて意識を保っていたγは、柳の肩に担がれながら呻いた
そして柔らかい声に自分を助けた者の正体に行きつきそのまま気を失った
跡部はフッと息をつく


「(………大した精神力だな)」


彼女も深く息を吐くと、青ざめた表情のツナ達に気づき

残酷なほど美しく、笑ってみせた






『久しぶりね。ボンゴレの皆様?』






その声が冷たく、空気を震わせる
ツナは掠れる声を発した


「さ……桜………なの?」


ツナの恐怖と落胆の入り混じった声に、ラルはハッと我に返った
雲雀は先ほどよりもさらに不機嫌そうに目を細める


「桜。お前、日本に来ていたのか…」

『ええ、そうよ。何か問題でも?』


ラルの問いに笑みを崩さず、底冷えするほど冷淡な声で桜は答えた
跡部はアーン?と目を眇めた


「雲の守護者は分かるが、他の奴らはなんだ
っつーかガキが混じってんじゃねぇか
ボンゴレ10代目に似てやがるが…」

「フム。女は知らないが確かに資料で見たボンゴレ10代目に似ているな
それは直接見た景吾の方が分かっているだろうが」


柳の言葉に跡部はああ、と頷いた
そしてツナに目を細める


「ボンゴレ10代目にガキがいたなんて情報はどこにもねぇ
桜。こいつらはなんだ?」

『女は門外顧問チームのラル・ミルチよ
そして、その小さな少年は、10年前のボンゴレ10代目、沢田綱吉』


桜の声には感情が伴っていなかった
ただ冷たいだけだった。跡部と柳は目を丸くする


「10年前、な。なるほど……」

「確かに、そう言われれば…」


納得する2人の横で桜は顔にかかる髪を煩わしそうに払う
するとツナが堪らずに動いた


「桜……嘘だよね
ボンゴレを裏切ったって、嘘だよね!!!」


桜の話を聞いてから、ツナはずっと信じられずにいた
いつも笑顔で、一緒にいてくれた彼女が敵に回るなんて思いもしなかった
柔らかく笑って、傍にいてくれるものと思っていた
何かの間違いであってほしかった

しかし、現実には違った

桜は今まで見たこともない冷徹な表情でツナを見下ろしていた
ツナは思わず息をのみ、喉がヒュッと鳴る


『10年前のボンゴレ](デーチモ)
随分とひ弱そうな格好ね』


蔑むように、憎むように
桜の紫色の眼光がツナを貫く


『私のことは、そこにいるラル・ミルチか
ボンゴレの他の守護者から聞いたことが事実よ
そこに雲の守護者もいることだし、彼にも訊いてみれば?』

「っ!!!」


10年前の桜とは全く違う雰囲気、声にツナは気圧された
桜はそれを軽蔑の眼差しで見ていたが、飽きたとでも言うように視線を外す
そして、先程からずっと殺気を出している雲雀へと視線を移した

雲雀は淡々とした声で言う


「桜。君にはこちらに帰ってきてもらう」

『あら。群れることが嫌いなあの雲雀恭弥の言葉とは思えないわね
貴方の口からまさかそんな言葉は聞けるとは夢にも思わなかったわ』

「…そうだな。うちのホワイトスペルの数人を

「群れていたから」

という理由で叩きのめした奴の言うことではないな」

「はっ。そんなこともあったな」


柳は目を閉じたまましみじみと言い、跡部は挑発するように笑う
雲雀はそんな跡部にトンファーを構えた
しかし跡部は笑みを崩さない
すると、桜にしか聞こえない声量で柳の口が開く


「(γの出血が思ったより酷い)」

『(………そう)』


ちらっとγを見れば確かに血の流し過ぎか顔色が悪い
桜は長居は無用と判断して薄笑いを浮かべる


『まぁ、このままあなた達と戦ってもいいのだけど今回は見逃してあげるわ
γもこんな状態だし、いくらなんでも今は時期がよくない』

「(時期?)ま………まって!!」


ツナは桜の言葉に引っかかりを覚える
だが桜がいなくなるというのは理解できたので慌てて桜を引き留めた


「なんで?桜。どうしてミルフィオーレに!!」


顔面蒼白のツナの必死の問い
桜は一瞬怪訝な顔をして、そして言い切った





『さあ。一つ教えてあげるとすれば、

私が白蘭とともにありたいと思ったからよ』





「!!!」

「(………改めて言われると……)」

「(何とも言えねぇな………)」


その答えに絶句したツナに、柳と跡部も肩を落とす
桜は興味を無くして黒い巾着から水色の石を取り出した

桜達の雰囲気を察して雲雀が苛立った声を発する


「待ちなよ。帰っていいなんて言ってないよ」

『あなたの許可なんて、必要ないでしょ?』


桜は冷めた声で言うと、持っていた黒塗りの銃を雲雀に向けて撃った
黒い炎が棒状に発射され、雲雀は辛うじて避ける
しかし今度は銃口を地面へと向け、引き金を引いた
今度は黒い炎がコーティングされた弾だ
それに加え跡部がいつのまにか開匣していた
彼もオレンジ色の炎が灯った槍を同じように地面に突き立てた

爆音と砂塵と爆煙が舞い、桜たちの姿を覆い隠す
雲雀は急いで砂塵に突っ込んだ


「チッ」


しかし、そこにはもう桜たちの姿はなかった


「えっ?桜が……消えた………」

「逃げられた……か……」


ラルの悔しげな声が木霊した
大きな喪失感を抱え
ツナは負傷した獄寺と山本の治療のため、一先ず雲雀とその部下草壁と共にアジトへと戻った



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