頂を目指す二ノ姫W

□2日目E
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それから全員のノートや問題集が黒く埋まった頃、部屋には2人の犠牲者の姿
魂が口から抜け、その目は死人のようだ

桜は額に手を当てて深く息を吐いた


『貞治………ちゃんとやったんだから飲ませなくてもいいんじゃないの?』

「今後も緊張感を保たせるためには仕方ないことだ」

「……さっき改良版って言ってたっスよね……
ただ試したかっただけなんじゃないっスか……?」


乾汁の餌食になった桃城と菊丸に桜は憐みの目を向ける
何とか被害を免れたリョーマはじりじりと後退しながらそう言った
裕太も青ざめた顔でそのやり取りを見つめる

すると乾は何も言わずに逆光眼鏡を押し上げ不気味に笑った
それにはリョーマや裕太だけではなく桜も
そして事の成り行きを恐々見守っていた周りもビクッと体を震わせた
唯一乾を止められる位置に居た不二はそれはいい表情で言った


「おいしかったから御褒美かと思ったよ」

「………それは不二先輩だけっス…」

「そうかな?裕太もどうだい?」

「ふざけんな!!」


いい笑顔で言われた裕太は表情を歪めて不二から距離をとった


『(あれがご褒美って………さすが周助だわ………)』


桜はもう一度溜息をつく
その様子を見ていた赤也と丸井は顔を引き攣らせた


「……青学って…おっかないっスね………」

「…………だな…」

「…うむ。勉強にも手を抜かずにいるとは見直したぞ」

「ああ。俺も貞治に倣って作ってみようと思ってるんだが」





「「それはやめろ/やめてください!!!」」





「…………そればかりは……許可できんな」

『ええ。やめてあげて……』


真顔で恐ろしいことを口走る柳に丸井と赤也は悲鳴を上げた
真田でさえも苦い表情で、桜も、そしてリョーマもこれには頷く
これ以上被害を出すわけにはいかない
少しばかり残念そうな柳から視線を外す

すると不二が唐突に桜に問いかけた


「あ、ねぇ桜」

『…なに?』

「ずっと聞こうと思ってた事があるんだけど」

『……?』


改まって言う不二に首を傾げれば不二は笑った


「越前と試合した時、桜は何語喋ってたの?」


唐突過ぎる質問に桜は一体何の事を言っているのか分からなかった


リョーマとの試合?


『……えっと……………』

「ほら。関東決勝が始まる前だよ」


越前と示し合わせて無断で休んだでしょ?


そう言われて思い出した
高架下のコートで試合をした時のことだ
随分と昔のことを聞いてきたものだ
と桜は思ったが、実際は2週間前だった
時が経つのは早い、としみじみと思う

一方、それを聞いた真田がムッと眉間にしわを寄せた


「練習をさぼるとはたるんど……

「なんだ。あの1年と試合をしたのか?
それより何語とはどういう意味だ?」

……」


怒ろうとした真田を遮って不思議そうな柳が問う
真田はムッとしたが、諦めたように口を閉ざした
柳の問いにいつの間にかノートを開いて書き込みをしていた乾が眼鏡を光らせた


「ああ。実は越前と試合をした時
桜は英語でも、ましてや日本語でもない言葉で話していたんだ」

「途中英語になったけど、あれは違った。何だったんだい?」


不二と乾の話に興味を持ったらしい宍戸たちも近づいてくる
桜は内心深く溜息をついたが、仕方ないと腹を決めた
不二の目を見れば、簡単に逃れられないことは明白だったからだ




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