頂を目指す二ノ姫W

□2日目E
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桜の前で、宍戸と向日が頭を抱え、鳳が難しい顔をしている
ジローも寝ているかと思いきや何とか手を動かしていた
その脇では昨日と同じように赤也と丸井が真田と柳の監視の元、問題集に目を通している

ちなみに桜の背後には桃城と菊丸、リョーマ、裕太がいる
4人は不二と乾の監督のもと課題に取り組んでいた
昨日よりさらに必死に手を動かす彼等の前には乾特製野菜汁
臭気に桜は先程から気分の悪さを感じていた


『(……あれ、ここに置いておかないでほしかった……)』

「あ、の…桜さん………」


若干遠い目をした桜に鳳がおずおずと問題集を差し出す
桜はそれを受け取り目を通した


「ここなんですけど……」

『うん。ココね……ここは』


鳳は基礎がしっかりしていて、何より吸収力が早い
躓いていたのも応用問題なので、少し教えるだけで簡単に理解してしまった
彼のような生徒は教える方もかなり楽だ
今回の問題もざっと説明をすれば鳳はパッと解いてしまった


「ありがとうございます桜さん!!」

『どういたしまして。復習にこっちの問題を解いておいてね』

「はい!」


元気に返事をする鳳は好ましい
何とも微笑ましい気持ちでまた課題に取り組み始めた鳳を見つめる
しかし聞こえる呻きに彼から視線を外して、桜は唸る宍戸と向日を見た
相変わらず厳しい顔をする2人
その手は完全に止まっていた


『無理そう?』

「…………ああ」

「……マジ幾何とか無理…………」


心底辛そうな顔の2人
氷帝は科目数も多いし難度も高めだと聞く
ついていくのも一苦労だろう
しょっちゅう赤点を取っただの、補習を回避したいなどと聞くのだから

だが、問題集を覗き込んだ桜も首を捻った


『……確かに少し難しいかもね………ちょっとそれ見せて』

「おお。いいぜ」


宍戸から問題集とテキストを貰った桜は、若干眉間にしわを寄せてにらめっこを始めた
幾何は青学にはない科目の為案外手こずりそうだ
しかも、本来幾何は2年生の必修科目の為3年生にもなれば分かりにくい
しかし桜はテキストの端から端までジッと目を通していく
そんな桜を見て向日と宍戸は遠い目をした


「(つーか、やったことない科目なのに出来る方がすげぇけどな……)」

「(本当に頭がいい奴っていんだな。跡部みたいに)」


ついつい尊敬する向日はふと、夕食の時の会話を思い出してジッーと桜を見た

向日は彼女に対して好意を抱いていると言える
だが、それが純粋な恋愛感情ではないことを自覚していた
彼が桜に抱いているそれは、確実に親愛
そして家族愛、とも言い替えることが出来るものだった


「(姉……っつーか母親っつーか………)」


およそ同学年の女子に持つ感情では無い
だが、向日の感情はまさしくそれだった
絶対的な安心感。いつも一緒に居るような、そんな安定感

現に彼女にもし彼氏が出来たとしても
今の関係性が維持できるのならば向日はきっと何とも思わなかっただろう
桜と笑い合い、助け合う
そして出来るのならば毎日でも会えるならどうってことない
そんな感情だった


「(…跡部とか侑士はきっと違うんだよな……)」


桜に好意を抱いている輩は少なくはない
現に跡部や忍足、隣に座る宍戸もそうだろう
そんな彼らは、夕食の時の桜たちの会話にも微かに反応していた
まぁ跡部と忍足などは表情が全くと言っていいほど変わっていなかった
だがあれはきっと何かしら思っていた筈
宍戸などは明らかに狼狽していたが、彼等は流石と言える


それに対して自分はどうだろうと、向日は思う
まるで家族のように感じている彼女に対して、彼らのようには思わない
そんな自分が望むものは、変化ではない


「(……俺は、このままでいい)」


このまま変わらずにいられたら
最近そんなことを考えてしまう
それが無理だと分かっているはずなのに、ふと思ってしまうのだ


このまま、みんなでずっと一緒にいられたら


向日はシャーペンをクルンと回した
それと同時に桜は口を開いた


『………っできた』

「…おっまじ!!」

『ええ。それじゃあ説明するわね。まずは………』


髪を耳にかけ、指で示しながら説明を始める桜
向日は気持ちを切り替えてノートを目で追った




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