頂を目指す二ノ姫W

□3日目B
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午後、これが最後の個別の指導だ
明日からは一応のところ試合
もしくは共通の練習を入れようと思っているのでまた違った編成になるのだ
その為全員に気合が入っていた

桜は南と東方のペアの動きに修正を入れている
全国区だけあって息の合ったプレーだがそれゆえ綻びが出るものだ

すると、千石が駆け寄ってきた


「いやぁ。練習に女の子がいるなんて最高!
しかも桜ちゃんだしね!」

『あら?試合は?もう終わったの?』

「桜ちゃんと喋りたくて速攻で終わらせてきたよ!」


にっこりと笑う千石は何故か憎めない。桜は苦笑した
遠くの方で室町が不貞腐れている
どうやら彼が対戦相手だったようだ
すると南が声を張り上げた


「おい千石!今俺達が指導を受けてるんだ!邪魔するな!」

「って、もう終わったでしょ?ね、桜ちゃん!」

『…まぁ、粗方終わったけど』


書き込んでいたプリントに目を落とし、もう一度頷く
書きたいところはもう書き終わっていた
それを聞いて千石はニィと口を吊り上げた


「それじゃあちょっと桜ちゃん借りるねー!!」

『え、ちょっキヨ!?』

「あ、コラ千石ぅぅぅ!!!」


唐突に腕を引っ張られ、桜は千石に連れ去られた

コートから出た千石は、桜を木陰に入れると肩を押して座らせた


『…キヨ?』

「昼食からずっと炎天下の中指導してたでしょ?
今日もかなり暑いし、少し休憩した方がいいよ
他のマネージャーたちはちょくちょく休憩入れてるのに桜ちゃんは入れてないからね」


そう言われてみれば、確かに昼休憩のあと木陰にいた記憶は無い
一応水分だけはとるようにしていたが、それも暑さのせいでどんどん汗となって流れ出ている

もう少し平気だと思っていたが木陰の涼しさに少し体のだるさを感じた
熱中症になってからでは遅い
千石の的確な判断に桜は感心した


『ありがとうキヨ。確かに休んでおいた方がいいみたい』

「いやいや!
ただ俺が休憩に桜ちゃんと話したいからもあったりするから気にしないでいいよ!」


さり気ない気遣いが出来るからこそ、千石は憎めないのだろう
桜はその軽口にフッと笑った


『そういえば、壇君は来なかったのね』

「彼がマネージャーなら連れて来たけどね
もう壇君は1人の選手として部活に居るから
きっと他の部員と一緒にラケットを振ってると思うよ」


桜の隣に腰掛けて、千石は頭の後ろで腕を組んだ
桜は都大会決勝が終わった後の事を思い出した
涙ながらに選手になると言った壇
そして、そんな彼を後押しした彼


『……仁は、元気?』

「………仁?」

『亜久津仁よ』


亜久津の名前に千石はああ、と目を細めた


「桜ちゃんて本当凄いよね。亜久津のこと名前で呼んでるし」

『そう?別にキヨも呼べると思うわよ?』

「いや。俺が呼んだら凄い顔されるよ」


ハハ、と乾いた笑い声を零した千石は表情を引き締めた


「部活辞めちゃったからさ、あんまり会わないんだよね
でもこの間商店街を歩いてるのは見たよ
まぁ元気なんじゃないかな?」

『そう。ならいいんだけどね
私、仁のアドレス聞いてないから連絡も出来ないし、どうしてるのかなって
栞ちゃんも気にしてたし』

「え〜。栞ちゃんってばヒドイな〜
俺の事は気にしてくれないのに亜久津の事は気にしてるんだ」

『フフッ。栞ちゃんは軽い男があんまり好きじゃないんですって』

「俺軽くないよ?」

『自覚がないって怖いわね』

「ひどいな〜」


千石はアハハと笑ってじゃあ、とにっこり笑った


「俺のアドレス受けとってくれる?」

『話の流れが良く分からないんだけど』

「そうしたらメールにもしかしたら亜久津のアドレスがあるかもね」


キョトンとした桜に千石は人好きのする笑みを浮かべたままだ
桜も彼の言わんとしている事が分かって思わず吹きだした



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