頂を目指す二ノ姫X

□大石の決断
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ベンチに座る大石の横に座った桜は、彼の手首を念入りに見た
触診で痛みがないことを確認すると息を吐いて救急箱から包帯を取り出す


『……無茶するわね、貴方も』

「…ごめん」


嘆息する桜に大石は申し訳なさそうに眉を下げた
しかし桜はじろっと大石を見上げた


『全く、ごめんじゃないわよ
あなたたちはどいつもこいつも怪我ばっかりして
心配するこっちの身にもなってほしいわ』

「……桜…最近口調荒いよね」


アハハ、と乾いた笑みを浮かべる大石を鋭い視線で射抜く
大石は包帯を巻かれていく手首に目を落とした


「ああすることが、俺の役目だと思ったんだ
全国制覇を成し遂げるために……」

『だからって、無茶していい理由にはならないわ』

「そうだね…」


力なく肩を落とした大石に、桜は目を伏せて息を吐いた
もう何度目になるか分からないため息だ


『まぁ、気持ちは分からないでもないわ
国光もそれは分かってるわよ』

「……うん」

『ただ、英二に何も言わずにやった事はいけなかったわね』


容赦なく大石の懸念を指摘した桜は横目で大石を見た
大石は暗い顔をして床を意味もなく凝視している


『貴方は、ダブルスプレイヤーでしょう
パートナーのことを少しでも考えてあげるべきだったんじゃない?
副部長としてよりも』


痛いところを突かれたのが目に見えて分かるほど大石ははっきり刺された顔をした
包帯を巻き終わった腕を掴み、顔を伏せた


「……英二には、悪いことをしたと思ってる
でも、この怪我を引きずってる俺が試合に出たとしても……きっと……」

『…………まぁ、過ぎたことは仕方がないわ』


救急箱を仕舞い、桜は大石の背中を軽く叩いた


『これ以上は貴方たちの問題だから、これ以上は言わない
何かあったら遠慮せずに言ってちょうだい』

「ああ……ありがとう」


項垂れた様子でベンチから立ち上がろうとしない大石
桜は若干後悔しながら大石に問いかけた


『もう帰るけど、鍵はどうする?』

「俺が閉めていくよ」

『そう。それじゃあお疲れ様。明日ね』

「うん。また明日」


気落ちした様子の大石を置いて部室を出ると、手塚が待っていた
桜は夕暮れの中で佇む手塚に懐かしさを覚えて小走りに駆け寄る


『お待たせ』

「ああ」


短いやり取りをして家へと歩き出す
桜は手塚の横に並んで思わず息を吐いた
手塚が横目で桜を見下ろした


「どうした」

『…私ってなんでこう上手く言えないのかなって思ってね』

「……大石のことか?」

『ええ。余計に落ち込ませちゃったなって…』


肩を落とした桜に、手塚は眼鏡を押し上げた
言葉を一つ一つ選ぶようにゆっくりと言う


「……桜の言葉に、俺は何度も救われた
お前の言い方が間違っているとも思わない
それに、あいつらは自分たちで答えを見つけるだろう


大丈夫だ」


手塚の揺るぎない言葉に桜が幾度となく救われていることを彼は知らないだろう
彼が桜の言葉に救われるのと同じように、彼女もまた手塚に救われていた
今も、きっと大丈夫だと、そう心から思うことが出来るほど、手塚の言葉に安心していた


『……そうね』


柔らかい表情を浮かべて、桜は頷いた
もう、彼等は桜の横を走り抜けて、前へと進んでいるはずだから


『きっと、大丈夫よね』


そう、言い聞かせるように口にした



その夜、菊丸から電話が来ることになる





全国大会まで、あと1日



→atogaki
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