夜空を纏う四ノ姫3

□疑念
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眼鏡をかけ直した手塚が淡々と言った


「記録装置(レコーダー)によると、妨害電波(ジャミング)によりレーダーが感知できなかったようだが
リングを使用しての戦闘があったようだ」

「グロ殿のサブ匣は発見されず、メイン匣は大破しています」

「…なるほどな。匣を使ったとなればリングも勿論使うだろうな
雨のマーレリングはどうした?」

「ああ。問題ない
桜に言われて奴を監視していた弦一郎がいち早く気付いて足取りを追い、回収したぞ」

『へぇ、ちゃんとやってくれたのね』

「ただ敵は逃走した後だったらしく確認はできなかったようだ」


難しい顔をした手塚の報告に入江は焦燥感を募らせる
チェルベッロから上着を受け取った


「一体どういうことだ!何があったんだ?黒曜と言えば昔六道骸が…」





《聞いた、正チャン?》





入江の言葉を遮り、突如パソコンに白蘭が映った
入江は驚いて上着を落とし、跡部と手塚も珍しく肩を跳ねさせた


「わあっ」

『白蘭!』


入江の驚愕の声と、桜の嬉しそうな声が重なった
白蘭は頬杖をついてにっこりと笑う


《グロがやられたって聞いたら正チャンと桜たち
どんな顔するかと思って抜き打ちコール♪》

『白蘭。ノーマル回線じゃ傍受されるわよ?』

「そうですよ。危険です」


困ったような口調の桜と生真面目に受け答える手塚に白蘭は笑顔のままだ
全く意に介さず朗らかに言う


《そん時は回線開きっぱなしの正チャンの責任ってことでひとつ》

「ま、確かにそれもあるな」

「あ……あなたって人は!!跡部くんもひどくないか?」


白蘭に頷く跡部に入江がジト目を送る
しかしすぐに思い出したようにパソコンの画面に身を乗り出した


「っていうか………

どうして黒曜ランドのこと、僕には教えてくれなかったんですか!?」

《だって僕も知らなかったんだもん》

「え?」

『そうなの?』


てっきり知っていたと思っていた桜は不思議そうに首を傾げた

確かに考えてみればおかしい
今まで白蘭が隠し事をしてもすぐに桜に耳には何らかの形で入って来ていたのだ
今回も白蘭が隠しているなら分かっただろう


《さすが下種だよねグロ君は。どーやって抜け駆けしたんだか》

『あの人の下種は今に始まったことじゃないわ』

「だな。あいつとは本気で話をしたくねェ」

「同感だ」

《凄い嫌われようだな〜グロ君》


桜達の言葉に白蘭は楽しそうに笑うだけだ
入江は真面目な顔をする


「とにかくこの回線は危険です!!
保護回線でちゃんと連絡させてください!」

《うん。じゃーねー、桜》

『ええ』


陽気に挨拶をする白蘭の声は途切れた
回線を切った入江にチェルベッロは声をかけた


「どういうことでしょう」

「わからない!γと違ってグロは昨晩イタリアから来たばかりだぞ」

『そうねぇ。白蘭がこういう嘘をつくとは思えないし』

「それにどこかからこっちに情報が流れるだろうしな」


跡部も桜と同じことを思っていたのかそう言った
手塚は考え込むように視線を下に落とす
入江は勢いよく立ち上がって肩を怒らせた
不測の事態と焦りとでかなりイライラしている


「とにかくグロ・キシニアと面会する!」

「グロ殿は医務室に運ばれましたが重傷でまだ意識が…」

「構うもんか!!桜、君はどうする?」


入江に問われた桜は困ったように眉を下げた


『そうね……少しやらなくちゃならないことがあってね
少し部屋に籠らせてもらいたいからやめとこうかな』

「そうか。分かった
なんとなく顔色もよくなさそうだし
少し休んだ方がいいよ」

『ありがとう』


微笑む桜に入江は頷いた


「気にしないでいいよ
手塚くんはどうする?」

「そうだな。俺も少し気になることがある
面会はまたの機会にさせてもらおう」

「分かった。跡部くんは」

「こいつが心配だからな。やめとくぜ。行くぞ桜」

『ええ。それじゃあまたね。何かあったら連絡をちょうだい』


桜は跡部とともに入江を追い越して部屋を出て行った
入江は桜の後姿を心配そうに見つめた


「(桜ってたまに顔色が悪くなるんだよな
もしかしてどこか悪いのか?そういえばγを助けた時も……)」

「どうした?入江」

「あ、ううん。ごめん何でもないよ」


考え込んでいた入江は手塚の声に我に返った
そしてグロ・キシニアが運び込まれた医務室に足早に向かった



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