頂を目指す二ノ姫X

□読む男と読めない男
1ページ/5ページ




レギュラーを前に、榊は硬い声で言った





「もはや青春学園は関東大会初戦で戦った相手ではない
実力は五分と五分。だが勝利を掴むのは我々氷帝学園だ――忍足。出番だ!」





『関東大会で戦ったからわかってると思うけど、氷帝は強敵よ
少しの油断で足元を掬われかねないわ
桃、気を引き締めていきなさい』





桜の叱咤に部員は笑って答えた



「《これより青学(東京)VS氷帝(東京)第1試合S3を始めます》」



桜の隣に座っていた桃城は、それを聞いて勢いよく立ち上がった


「しゃあ――っ応援頼むぜ!!」


立ち上がった直後、桃城は持っていたタオルを後ろに放った
堀尾が慌てて落ちるタオルを掴みに走る


「ちょっと桃ちゃん先輩。全然届かな…」


その時、風が吹いた。何て事は無い風
だが、その風がタオルをさらった


「大丈夫だって」


そう言った桃城の言葉は間違っていなかった
タオルはベンチの背もたれにかかったのだ


『(………あら)』


桜はキョトンとしてそれを見る
桃城は桜を振り返って元気に笑った


「そんじゃ桜先輩!行ってきますね!!」

『……ええ。行ってらっしゃい』


ネットに向かい合った忍足と桃城
忍足は低い声で桃城を見て口を開いた


「何やまた自分か…桃城」

「どーも」

『(さてと……桃は自覚したのかしらね)』


桜は面白そうに口元を緩めた



「《ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ 青学桃城サービスプレイ!》」


「久々の試合なもんで嬉しくって武者震いが…」

「何や早よ打ちいや」

「すんませーん。んじゃボチボチ行きますよ!!」


桃城の威勢のいい声と共にボールが放たれる
それを忍足は冷静に分析していた


「(何や思ったより…パワー増してへん)」


しかし忍足は次の瞬間目を瞠った
ボールがバウンドと同時に方向を一気に変えたのだ
弾かれたように全く逆の方向に飛んでいくボール
忍足はコートを見てそれに気づき、桃城に目を向けた


「(コイツ狙いよったな)」


「《15−0!》」


「そこの小石。拾っといた方がいいっスよ忍足さん」

「(こんな小っこいのを――――)」

『(へぇ、あんな小さい石に当てるなんて……)』


合宿でも確かにコントロールが良くなったとは思っていた
どうやら随分と技術を磨いたようだ
合宿前にコソコソやっていた成果だろうか
さらにラリーを始め、忍足は冷静に分析を始めていた


「(なる程…
桃城の奴パワーを捨て、70%程の力でコントロール重視のテニスに変えた様やな
せやけど…そーいう奴ほど崩し易いわ)」

「ドロップショット!!」

『さすが上手いわ。でも』

「いや桃城の奴読んでやがった!?」


ネットに走り込んだ桃城が打ち返す
しかし忍足もまたネットに詰めていた


「甘いわ」


そして今度は桃城の頭上を越すロブを繰り出す
桃城はそれも追いかけ返すが、またしてもドロップショット


「せやから甘いって…」

「暴れ足んねぇな、暴れ足んねぇよ!!」


しかし桃城は驚異の運動能力でまたもやネットまでダッシュしてボールに向かう
だが、それすらも忍足は読んでいた


「(せや。それを拾うてこそ桃城やんなぁ)」

「だ、駄目だ…桃の奴、完全にペースを崩された!!」

『(コートの端から端まで走って追いつく…か……)』

「凄い。追いついたっ!?」

「…けど、駄目だ…」


飛び込みながらラケットにボールを当てる
ボールは忍足の頭を大きく超えてネットの外に出ようとしていた
しかし、


「大丈夫だって…」


その時、風が吹いた
ボールはラインすれすれでコートの中に落ちた
倒れたまま、忍足に指を向けて桃城は言う


「どーん」



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ