頂を目指す二ノ姫X

□己との戦い
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「《アウトッ!!》」






予想していなかった声がした
ハッとしてコートを見れば、樺地が煩わしそうに手をジャージで何度も拭っていた
その後も樺地は何度もアウトを出していた


『……確かに、樺地くんを相手取るのは自分を相手にしている様ね…
でも、彼と国光の違いが一つあったわね』


桜は跡部を横目で見て髪を掻き上げた
ジャージがどんどん水分を含んで重くなっていくのも構わず、試合を目に焼き付ける
ジャージを思わず掴んだ
桃城は目を輝かせていた


「そうか。アクシデントの雨に対して樺地は対処出来ないんだ!!」

「たしかにコートの状態、水を含んだボール、そして濡れて滑るグリップ……
これだけの条件が加わってはそっくりそのまま返すのは至難の業だ」

「手塚はこれを狙っていたのか?」

「ううん、それは分からない
でもどんな悪条件でも練習を積み重ね実践を積んできた………






経験の差が勝敗を分けたんだろうね






「(………経験の差か…………)」


手塚はボールを打つにつれ、どんどん冷静になる自分に気が付いた
雨も最早気にならない
そして思い出すのは、今のような雨の降りしきる中
相対した彼女の不敵な笑みだけだった















『付き合うわよ、練習』


ネットを挟んで目の前に立つ桜の手には彼女愛用のラケットが握られている
手塚は眉間にしわを寄せた


「……風邪をひくぞ」

『それ、国光が言うの?』


からかう様な声音に手塚が黙る
桜は、ぴったりと頬や首に張り付いた髪を鬱陶しげに払い、
雨に打たれていてもなお凜とした様子で手塚に言った


『どんな状況下でも練習を怠らなければそれは貴方の強みになるわ
例え、どんなことがあってもね』


そう言った彼女の視線は手塚の左腕にあった
それで理解した
彼女は腕を怪我した自分のことを心配し、支えようとしてくれているということに
だから手塚は、彼女の申し出を快く受け入れた


「行くぞ、桜」

『いつでもどうぞ』
















「(お前との練習の日々
そしてあの約束が、俺の糧だ………桜)」





「《ゲームセットウォンバイ手塚7−6!!》」





手塚は仲間に向けるように、右腕を空へと突き上げた



→atogaki
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