頂を目指す二ノ姫X

□無我の奥
3ページ/4ページ




桃城は乾を見上げた


「才気煥発……って?」

「才気……つまり頭の回転が速くすばやく適切な判断が出来る頭の働きが、
煥発……光が発散する様にそれらが際だって目立つ事…かな」

「…桜。君が開いた扉が才気煥発の極みって本当かな」

『……本当よ』


桜が肯定すると、桃城と菊丸が感心したように声を零した
桜は部員の視線を感じて腕を組み直した


『要するに……「百錬自得の極み」は無我の力を片手のみに集める事で
技・回転・球種を倍返しに出来た』

「うん」

『――それに対して「才気煥発の極み」は頭脳の働きを活性化させる事により
どのような打球をどう打てばどこに返ってくるかを一瞬でシミュレート出来る
だから何打目で決まるのかが頭の中で見えているのよ』

「まるで将棋のプロが、何手先で詰むのかが分かる様にな」


「《マッチポイント四天宝寺!》」



手塚が後を引き受けてそう言ったのを聞いて桜は手塚を見上げた
彼にも、それは分かっているということは


『………本当…侮れないわね』

「…どうした?」

『何でもないわ』


桜は肩を落として息を吐いた
手塚は不思議そうな表情を浮かべた

そしてついにマッチポイント
橘には後が無くなった


「最後は粘るけん。12球で決着がつくたい」

「いちいちうるしゃーばい」


ボールに追いすがるが、刻々と打数は嵩んでいく
カウントダウンに我慢できなくなり、神尾たちは叫んだ






「橘さん!!」






「(おうよ!このまま負ける訳にはいかねぇよな!!)」


すると橘が片足一本で立ち、上半身を捻った不可解な構えを見せた
千歳の脳裏には獅子楽中時代の、橘との最後の試合が甦る


「(アレで来んとや!)」


それはラケットのフレームでボールを強打することで打つ







「あばれ球!!」







無数のボールが同時に千歳に向かう。それほどの変化
だが千歳は、その中の本物をラケットに捉えた


「バカな。あれを受け止め…」







「桔平ぇーっ!!」







「見事ばい…」







ボールが橘の横を抜け、落ちた
その瞬間、歓声が沸き起こった



「《ゲームセットウォンバイ千歳 7−5!》」


『(……凄い試合を見せてもらったわ……本当に)』


技術もさることながら凄まじい気迫とパワーのぶつかり合い
あまり見れる試合ではない。それに加えて


「千歳くぅ〜んV
まだホンマは右目の視力あまり見えへんのやろ?
よく最後のアレ返せたわね」

「簡単たい」


小春の言葉に、千歳は目を瞑った
その前を、橘が歩き去って行く


「桔平のヤツ
一球たりとも…俺の右目ん死角、左サイドに打たんかった」

「「え?」」

「(橘桔平か…)」

「最後の最後そこに気付かんかったらあぎゃん打球返せとらんたい」


桜は橘の思いと千歳の思いに胸を熱くさせた
ジッと視線を送るが、その視線に気づいた千歳がフッと笑う


「そう言えば『無我の境地』の奥の3つの扉の最後の扉ばってん―――
開かずの扉て呼ばれとったい
他の2つの扉とは次元が違うばい!
人間が入る事を許されとる領域ではなかってこったい」

『………』

「俺の調べでは数十年前に1人だけ扉ば開いた人物が存在するとたい
それが無我の最後の開かずの扉…」







『天衣無縫の極み』







→atogaki
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ