頂を目指す二ノ姫X

□リョーマはいずこ
1ページ/4ページ




「やぁ、桜。わざわざ時間を取ってもらってごめんね」

『いいえ。大丈夫よ精市』


決勝まであと数十分と迫った現在
桜は幸村、真田と相対していた

昨日のうちに、幸村から電話が来たのだ

話したいことがある。時間を取れないか、と

桜は決勝前だということを感じさせない、余裕の2人に目を細めた


『それで、話って?』

「うん………
桜に言いたいことがあって」

『?言いたい事?』

「ああ。俺が倒れてから、今まで本当にありがとう
君がいてくれたから、俺はまたこうして、コートに立てるよ」


柔らかい表情の幸村に、桜は慌てた
そんな大層な事をした覚えはなかった


『何言ってるのよ。全部精市が頑張ったからよ』

「いや。きっと俺だけじゃダメだったよ
勿論真田たちのおかげでもあるけど、その中に桜も入ってる
だからありがとう」

「俺からも礼を言わせてくれ
お前のおかげで、挫けることなくこうしていられたのだ」

『弦一郎……でも……』

「いいから、言わせてくれ」


戸惑う桜だが、幸村の真っ直ぐな目と、真田のしっかりした声音に口を噤んだ
仕方なさそうに目じりを下げ頷く


『それじゃあ、受け取っておこうかな』

「うん。受け取っておいて」


その瞬間、幸村の纏う空気が変わった
今までの柔らかい雰囲気は鳴りをひそめ、鋭さを見せた
もう彼は、ただの幸村精市ではない

全国2連覇を成し遂げ、3連覇のために部を率いる
立海大の部長、幸村精市だ


「でも、試合は試合だ
何より、全力を尽くさないなんて桜に失礼だからね
桜には悪いけど、







立海の3連覇に、死角は無い








勝つのは、俺達だ








宣戦布告だった
圧倒的なまでの
今の立海は関東大会決勝で戦った彼らではない
だからこそ、桜もまた気が引き締まった


『……私が言えることは一つだわ






きっと、凄い試合になるでしょうね






その桜の返しが意外だったのか、幸村と真田は目を丸くした
選手ではない彼女が言えることは少ない
もう、勝敗を口にはしたくない
これが、最後なのだ
この勝負の結末は、桜の与り知らぬところにある
それが嬉しくて、今一番安心できる
だからこそ、もう何も言いたくない


『…………もう時間だわ。行くわね』


踵を返した桜
その耳に幸村の、堅い声が響いた


「試合の後」

『……』

「試合の後、時間を作ってほしい」


首を向ければ、幸村の目が真っ直ぐ桜を貫いた


「……試合をしてくれないか?
桜と、試合がしたいんだ」

『…………いいわよ』


幸村のその真剣な目に桜は了承した
そして、今度こそ彼らに背を向けて歩き出した





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ