頂を目指す二ノ姫X

□Dear Prince
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凄まじいリョーマの攻撃の中、幸村は心の中で繰り返し言った


「(集中力を高めろ。冷静になれ精市―――
絶対に返せないボールなんて無いんだ!!)」


しかし、リョーマの打ったボールが見当たらない
辺りを見回した幸村の耳に、シュルルル、という擦ったような音がした
半信半疑でネットに視線を戻せば、
ボールがちょうどネットを駆け上がり、コートに落ちるところを目にした


『(……比べものにならない…)』


ついに、リョーマが追いついた
汗を流し、息を上がらせる幸村にリョーマは笑って問いかけた






「楽しんでる?」






本当に、リョーマは楽しそうだった
こんな風に、テニスを楽しんでいる人間を見るのは久しぶりの様な気がしていた
心の底から、今、ラケットを振っていることが、強敵と渡り合っていることが、
楽しいと、感じている人を見るのは久しぶりだったのだ
だが、これこそ桜が見たかった顔なのかもしれなかった


『(………みんなは、ここで、新たな人生を受け取った……
その証が………これだって………私は知りたかったのかもしれない)』


全く違う人生を歩んでほしい

そして、心からの笑顔を見せてほしい


それが桜の、あの時からの願いなのだ


「まさに天衣無縫…
無我の力を体の内側に溜め込み
何らかの形で全く無駄なく体の必要な所に放出して増幅、爆発させる
つまり――五感を奪われる前に越前がみせた
百錬パワーを適材適所に移動させたアレの進化版みたいなものなのかもしれない
――と無理矢理解説してみたものの、我々には到底想像も出来ない何かが……」


乾は言葉を切った
袈裟姿の無精ひげの男が階段を降りて来たのだ


「よう…バアさん」

「南次郎…息子がお前と同じ所に辿り着きおった…」

「南次郎って…まさか、






サムライ南次郎!?






リョーマ君って伝説のテニスプレイヤーの息子だったの!!?






「だ、だから天衣無縫に…なれる資質を持っていた訳っスね」


桃城がそう言えば、南次郎が笑った


「違うな青少年」

『「天衣無縫の極み」なんて、最初から無いわ』






「「「ええ〜〜っ!!?」」」






桜の突然のカミングアウトに、部員は驚きの叫び声をあげた
南次郎は頭をガリガリと掻く


「オイオイ。俺の台詞をとらないで……とるんじゃねーよお嬢ちゃん」

「?」

『………失礼しました』


詰まった南次郎に河村は首を傾げる
南次郎は空咳をした


「ウホン……まぁお嬢ちゃんの言う通りだ」

「…でも」

「あ〜無ぇっちゅーか…そーだな





天衣無縫なんてもんは誰もが持ってるもんだぜ





テニスを始めた時
日が暮れるのも忘れて夢中になった
どんなに負けても楽しかった
あの時、誰しも天衣無縫だった


「それが―――――部活やスクールに入って試合に勝たなきゃいけねぇ
勝つ為にミスを恐れて安全なテニスを覚えやがる
いつしかどいつもこいつもあん時の心を忘れちまう」





だが、誰もが最初にテニスに出会った時の気持ち………

テニスを楽しむテニスこそが、天衣無縫なのだ





それは桜がよく分かっていた
死神として生きてきた彼女は最初にテニスに触れた時、柄にもなく楽しいと思った
役目を忘れたわけではない
だが手塚に勧められて女テニに入るぐらいにはのめり込んだ
マネージャーになったのだって、
本当はテニスに、テニスを楽しむ彼らの傍で支え、
一緒に楽しみたいと思ってしまったからだ
だからこそ桜は、今ここに居た


『(それが……始まりだったのかもしれないわね)』




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