頂を目指す二ノ姫W

□顕われた傷と
3ページ/4ページ





「………やはりだ」

「どうした乾」


低い声でそう呟いた乾は、ノートに向けていた視線を上げた
眉を顰めて眼鏡を上げる


「……いや。おかしいなと思ってな」

「何がだ?」

「これだ」


そう言って見せられたのは、あの乾のノートだった
中を見せたがらない乾が躊躇なく見せてきた事に内心驚いた手塚だが、
促す乾にノートに視線を落とした
そこには、やはり乾だと言うべき細かい情報が記されていた


「………おかしなところはないと思うが?」

「確かに、乾らしい丁寧なノートだよね」

「「!!!」」


突然、第三者の声が聞こえれば手塚でも驚く
しかし顔に出ないので誰にも理解されない
驚かせた張本人である不二は「もう少し驚いてくれても」と手塚を見上げた
手塚は眉根を寄せる


「……いきなりどうした、不二」

「いや、手塚と乾が話し込んでるから何事かと思ってね」


いつも通り食えない笑みを浮かべる不二に手塚は息を吐いた

乾が気を取り直してノートを2人に見せるように広げる


「……実はな、俺が考えたとは思えない事が書いてあるんだ」

「乾が考えたとは思えない?」

「どういう意味だ」


眉間にしわを寄せた手塚に乾は至って冷静な声音で告げた
しかし、乾にしては要領を得ない


「……確かに俺は、練習メニューや全員のデータを細かく、逐一ノートに書きいれている
だが、俺では考えつかないような改善点や問題点なども書き記されているんだ
まるで第三者が指摘したようにな」

「…それなら僕や手塚
大石や…竜崎先生が仰ったことを書いたんじゃないのかい?」

「……その場合は発言者の名前も一緒に書くようにしている
だが、これには名前が無い
明らかに俺のではない指摘が俺の文字によって書き込まれているんだ」

「………」

「それに、おかしいのはそれだけではない」


そう言って乾はバッグからビデオを取り出した


「これは、昨日の全国大会を撮った映像だ」

「ああ。手塚の笑った顔を撮ったやつか」

「!!そんなものを撮っていたのか」

「まあな」


険しくなった手塚の視線を綺麗に流し、乾は再生のボタンを押した
越前がスマッシュを放ち、審判の声が青学の勝利を宣言した


「これは、朝見た時に不思議に思ったんだが」


画面の中では、全員が歓喜の声をあげていた
越前を胴上げし、手塚が笑っている


「………それで、どこが不思議なんだ」

「…………ここだ!」


一時停止を押した乾
不二は目を開き怪訝な顔をした





「………これ、どういう事?」





「分からない
俺がこの時何を撮りたかったのか、分からないんだ」





「……不可解、だな」

『ほら、待ってるわよ皆』
「……悔しいけど、でも、何かを見つけられた気がするよ、○○」
「いい試合だったよ……たくさんのものをもらった
だからきっと、俺は君にありがとうって、言いたいんだ」
『わ、私は何も………』
「それでも、いいのだ」


そこに映っているのは手塚だ
だが、微妙に中心が手塚ではない
手塚の後ろにピントがあっていた
少し前のめりになる手塚と、その後ろにある奇妙な空間


「これでも情報収集において映像資料は貴重だからな
撮影技術はそれなりに磨いてきたつもりだ
それなのに、手塚に照準があっていない」

「まるで、手塚の後ろを撮ろうとしていたみたいだね」


写真を撮ることを趣味にしている不二はそう言って顎に手を置いた
さらに、と前置きして乾は再生を押した
さらに手塚の眉間にしわが寄った


「……何だ?」

「俺はこう考えた。まるで、何かを追いかけている、とな」


映像は、何か見えないものを追うように流れていった
そして、その先には立海がいた
だが、それも不可解だった。彼らの動きはまるで


「……誰かと、話してるみたいだ」

「ああ」

「だから、おかしいんだ
意味が分からないと言ってもいい
こんなものを撮る意味が」


乾の低い声に、手塚も押し黙った




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ