頂を目指す二ノ姫W

□這い寄る影と
2ページ/2ページ




「………不可解だな」

《ああ。こんなこと考えたくねーが、
俺様たちに理解しがたい何かが起こってやがる
他人に話せば鼻で笑われるだろうが、事実だ》

「そうだな」


それは理解せざるをえない
今だって、信じられない
それでも、今を受け止めるしかない
そして受け止めた結果がこれだ


《………しかも、その理解しがたい何かは
俺様たちの記憶に作用しているらしい
それも青学に関係がある》

「!!どういう意味だ」

《そのままの意味だ
俺様たちの日常の中にはそれほど違和感を感じねぇ
違和感は共通して、テニスに関わってやがる
それも………青学と試合をした時が顕著だ

「!!」


手塚はハッとした
そこは彼らと違う所だ
手塚は、ふとした瞬間にそれを感じている
家でも、通学路でもだ
手塚は帰宅した時の薄ら寒さを思い出して眉を顰めた
すると跡部が唐突に言った


《おい手塚。明日は時間があるか?」》

「………あるが」

《こうやって燻っててもラチがあかねぇ
俺達に何かが起こってんのは事実なんだ
俺は心当たりを当たって人を集める
集まって話を聞いてみようじゃねぇの》


自信ありげな跡部に手塚は目を瞬かせた
こうやって突拍子もないことを言いきることが出来る跡部は密かに尊敬できる


「………心当たりというが、一体どうする気だ
大会関係でしらみつぶしにあたるつもりか?」

《そうだな。まずは全国大会前の合宿参加校をあたる
それから立海だな
あとは四天宝寺と…青学と当たった比嘉中、か?それもだ》

「………明日の予定を聞いたということは明日集めるつもりだろう
四天宝寺は大阪で、比嘉中は沖縄だぞ」

《問題ねぇ。どちらもまだ都内のホテルだ
旅費をもってやると言えば何とかなるだろう
俺様を見くびるなよ、手塚》

「………そうか。すまない」


規格外な跡部の行動にため息をつきかけた手塚
すると跡部が低く、堅い声を吐き出した


《とにかく、明日集まって話すぜ
今思い出さなけりゃならねぇ気がするんだ……
この機会を逃したら………一生後悔する。そんな気がな》

「!!………そうだな」


手塚もそれは感じていた

心の奥底が切望している
堅く閉じられた扉の先を、こじ開けたいと叫んでいるのだ
今開けなければ、もう二度と開きそうにないと、漠然と思い知らされた


「………頼む、跡部
不二たちには俺から連絡をしてみよう」

《ああ。明日、俺様の家に集めるぜ
車を向かわせるからそれで来い》










「「「待てよ乾。5枚でいい」」」
「お前と同じ枚数だろ?」
『あら。バレてたわね?』
「ね。乾先輩、○○先輩
どーせ5枚までやるんでしょ?」
「6枚でもいーけどね」
『いいえ』
「レギュラーは10枚まで」
「ふざけんな」
「鬼コーチ!!」
『あら、鬼コーチ?上等じゃない』
『何か、枚数に文句でもあるのかしら?』
「「「「「「「ありません!!!」」」」」」」







そのやりとりがあって、手塚は跡部の家へとやって来ていた
小柄な影が呆れたように言う


「……これ、家じゃないっス」

「ほとんど城だな………」

「フフッ。そうだね」

「向日などは「跡部ッキンガム宮殿」と呼んでいるらしいぞ」

「……な、なんで知ってるんですか」


最早宮殿と呼べるその家に唖然とするのは手塚だけではない
彼の呼びかけで集まった不二、裕太、乾、海堂、越前もだ
彼らも、この違和感の正体を突き止めたくてやって来た

裕太がやって来た事に驚いた手塚だが、彼もまた合宿参加者であり、
早くから違和感を抱いていたことを不二から聞き、その異様さに息を呑んだ


「……でも、ほんとうに何が起こってるんスかね…………」

「集団記憶喪失……か。もしくは集団催眠か」

「信じられないけど、こうも違和感だらけだとね………」

「逆に桃先輩たちの方がおかしいっスよ
こんなに矛盾だらけなのに全然気にしてないんスから」


越前が口を尖らせてそう言った
それには手塚も同意せざるを得なかった
彼らにも一応連絡をしたのだが、帰って来た返答は思わしいものではなかった
大石には随分と心配されてしまった


「……とにかく、行ってみないとね」

「ああ。もう氷帝は集まっているだろう」


硬い表情のまま、5人は一歩足を踏み出した




fin.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ