頂を目指す二ノ姫W

□這い寄る影と
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手塚は、その広大な敷地に足を踏み入れていた
煌びやかな装飾の施された、宮殿に見紛う立派な家
氷帝学園テニス部部長、跡部景吾の家である

何故彼の家に訪れているかと言うと、昨夜かかってきた電話の為だ
電話は勿論跡部からのものだった











『本番は明日の都大会後半戦でしょ?』
「残念だけど、この勝負おあずけだね」
「ズルいっスよ。自分が4−3で勝ってるからってこれからなのに…」







《よう手塚》


受話器から聞こえてくるその声に、手塚は眉間にしわを寄せた


「跡部……こんな夜に何の用だ」

《何だ。随分いらついてるみたいだな》

「……要件を言え」


自分でもらしくないと思いながらそう言えば、跡部が喉で笑った
だが、その声にどこか緊張しているような気配を感じて手塚は内心首を傾げた


《そう慌てるな。少し訊きたいことがあってな》

「聞きたい事?」


そう問いかけると、跡部が息を吐いた
そして一瞬の沈黙が生まれた
何かを言い淀むような気配に、手塚は目を微かに見張った
いつも自信に満ち溢れ、はっきりとした物言いの跡部にしては歯切れが悪い
跡部はもう一度息を吐き出すと言った


《なぁ手塚…………今日一日、テメェはどうだったんだ?》

「……どういう意味だ」

《………違和感を…感じなかったか?》

「!!」


それは、今の手塚の心情を的確にとらえた言葉だった
さらに補足すれば


《……まるで》






「何かを忘れているような……」






《……っ!!》


手塚の呟きに、跡部が息を呑む音がした
跡部は自分の声が震えるのが許せないのか、懸命に押し殺した声を発した


《……どうやらテメェもみてぇだな》

「……ということは…跡部もか?」

《ああ………今日一日、朝からずっとおかしかった
辻褄があわねぇ事や、身に覚えのないことが多かった
まるで何かを………<誰か>を忘れているような……そんな感覚だ》

「………俺もだ」


跡部の言葉は、今日一日手塚が感じた違和感そのものだった
瞬間、肌が粟立つのを感じた
あまりに不可解だった

その瞬間、手塚は越前と乾の事を思い出した


「……跡部。その違和感はお前だけか?」

《いいや…テニス部レギュラー……違うな…
樺地を抜いたテニス部レギュラーだ
全国大会やそれ以前の大会なんかに共通して違和感を感じた
程度の差はあるがな。そっちはどうだ?》

「……こちらも俺以外に越前や乾や不二……それに恐らくだが海堂だな」


ミサンガの事を聞いた時の反応を思い返し、手塚は名をあげた
おかしいと思ったのだ
誰からもらったのか定かではない物
それを前にして大石たちの返答はあまりにもあっさりしすぎていた
ならばおかしいのは彼らなのか

いや、違う

全員に何らかの異変が起こっているのだ
それに気付けているか、そうではないかの違いだ
それが導き出された答えだった
ならば、少なからず疑問に思えている者にまず焦点を当てるべきだと考えたのだ
だからこその返答だったが、その考えを聞いた跡部は感心した様だった


《………成程な
俺達全員に異変が起きているというのは中々妥当な意見じゃねーの》

「…………そうか」

《実は気になってすぐ、四天宝寺に連絡を取った》

「……四天宝寺?」


なぜ突然四天宝寺が出てくるのだろうと手塚は怪訝に思った
しかし跡部が事もなげに言った


《ああ。忍足の従兄弟に連絡をさせた
違和感の中に、全国大会の準決勝後があったからだ》


そう言われて、思い出す事は一つだ
忌まわしきあの記憶


「!あの……焼肉を食べた時か」

《そうだ
あそこにいた学校のうち、何か違和感を感じる人間がいたら
それが突破口になんじゃねーかと思ってな》

「………どうだったんだ」

《……ビンゴだぜ》


跡部の話に拳を握った
忍足の従兄弟である謙也もまた、違和感を感じていたらしい
その様子に気づいた白石や財前もまた、謙也と同様
さらに千歳、遠山すらも何かしらを感じていると言うのだ



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