頂を目指す二ノ姫W

□途切れた姿と
2ページ/3ページ



―――――
―――


「なぁなぁ白石〜」


それまで何とか黙って話を聞いていた遠山だが、眉を下げて白石の服の裾を引いた
白石は遠山に窘めるように言う


「金ちゃん。皆真剣に考えてるんや。静かにしとき」

「せやけどヒマやん。ほんならスタジアムに行きひん?」

「………金ちゃん」


呆れたように息を吐く白石だが、不二がでも、と口を開いた


「いい案かもしれないよ」

「不二」

「違和感を感じた最後の場所で、全員が違和感を感じた共通の場所。そうだよね」

「………ああ」

「なら行ってみる価値はあるよ
それにここで考えてても思い出せそうにないし、身体を動かしてみるのもいい事かもよ?
それに、思い出したいんでしょ?僕たちが忘れてるだろう、大切な人のことを」


彼のその言葉に、全員の顔つきが変わった

みんな、感じているのだ
違和感を感じる記憶
全員に共通する不可解なこの状況でも、失われてしまった、記憶を取り戻したい
忘れてしまった、かつて自分が大切に思っていた人の記憶を


取り戻したい、取り戻さなければならないと


「そう…ですね」

「思い出したかと」

「そうじゃないと、いけない。そんな気がするよ」


誰もが、そう望んでいた
跡部はフッと笑った


「なら、やれるだけのことをしなけりゃな」

「跡部?」


跡部は備え付けの電話の受話器を取ると、どこかに電話をかけ始めた


「……オレだ。至急数十分でいい
スタジアムを借りれるよう問い合わせてくれ」


恐らく相手は執事なのだろう
だが、唐突な行動に全員目を丸くした


「……さすが………お金持ち」

「やることなす事なんていうか……」

「でも、今は助かりましたね」

「だな」










―――――
―――

その結果、翌日、今となっては今日の午前中だけ時間が取れたのだ
その為跡部の計らいでそのまま家に泊まらせて貰うことになった


「(………スタジアムに行けば……何かが分かるかもしれない………)」


藁に縋るような、途方もない、はっきりしない話だ
だが、一晩寝て確かに感じていた
スタジアムに行けば、そうすれば、この違和感の正体を突き止められると

漠然としたそれに、しかし手塚は期待を込めていた


「(さて………)」


手塚は朝が苦手な後輩を起こすため、布団から起き上った

いくら大きいと言っても人の家だ
30人近い人数分の部屋を用意することは不可能だ
青学は3年生3人で一部屋を使っていた
越前は海堂と裕太と隣の部屋だ

部屋を出ると、ちょうど右手側から同じようにドアの開く音がした
首を向けてみれば、そこには真田がいた


「ム。手塚か」

「真田。早いな」

「貴様もな」


ふと彼の顔色が悪いことに気がついた
どことなく目の下に隈の様なものが見えなくもない


「……眠れなかったのか?」

「なんだと?」

「顔色が悪いぞ」

「それは貴様にも言える事だが?」


そう言われて手塚は驚いた
自分の顔も酷い顔をしているらしい
確かに、ようやく眠ったのは明け方になってから
つまり何時間も眠れていないのだ


「………やはり、気になるか」

「ああ………こんな事になるとは思いもしなかった……」

「…………」


いったい誰が信じられるのだろう
記憶を失ったなどと
誰かをまるっきり忘れていると
それも、自分だけではない
こんな大勢が一度に一斉に
そう簡単に信じられることではない
受け入れられることではない
あの場でなんとか納得してみても、一人で考える時間が出来て疑ってしまうのだ
今ここにいる、自分自身のことを


「(不二も乾も恐らくあまり寝ていないだろうな……)」


それはきっと、越前もだろう

少し、起こすことを躊躇われた


「………もう少し…寝かせておくか」

「お前も起こしにきたのか?」

「ああ。朝に弱い奴だからな」

「そうか………」


同じような事で起き出した2人は、昨日案内された広間に揃って歩き出した
まだ、寝かせておこう。今日、この後のために




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ