頂を目指す二ノ姫W

□途切れた姿と
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そこは、つい3日前
中学テニス界の頂点を決める熾烈を極めた戦いが繰り広げられた場所だ
手塚はスタジアムに足を踏み入れ、そのコートを視界に映した瞬間、
あの激闘を思い出して腕を掴んだ
心の奥底から湧き上がる高揚感
だが、それと同時に、どこか言い様のない不安を感じた


「まさかこんなに早くここにくることになるとはね」

「………ああ」


普段は閉じられている天井も、今は開いている
その為、あの激戦の時となんら変わらないように見える


「ここで、俺達は青学に負けたんだね……」

「うっ……」

「私たちなんか、このコートで試合も出来ませんでしたよ」


木手が顔を顰めて言った
佐伯も苦笑する


「んで、なんか分かった事あるか?」

「誰か思い出した事とかない?」

「そう言われてもなぁ」


考え込むような彼らだが、一際興奮した声がした
何故かラケットを持った、遠山だった


「なぁコシマエー!!試合しようや!!」

「……今そんな気分じゃないし。考えてるからヤダ」

「そう言わんと!!せっかくコートに来とるんやし」

「ちょっ金ちゃん!!」

「……ホンマにこの状況に違和感持っとるんか?あのルーキーは?」

「………そのはずなんやけど」


遠山に呆れた表情の忍足に謙也も苦笑いした

手塚は、そのコートを目に焼き付け、そして目を閉じた

今でも思い出せる
越前が打ったボールが真っ二つに割れ、幸村がそれを打ち返し、
越前のスマッシュが決まった時の事を
天衣無縫の極みを発現させ、青学を全国優勝に導いた時の事を








『お疲れ様、皆』








「!!」


その瞬間、手塚は息を呑んだ
頭の中で、誰かの声を聞いた。誰かの姿を見た
突然変わった手塚の様子に不二は怪訝な顔をした


「手塚。大丈夫かい?」

「…………アレは……誰だ」

「アレ……?」


向日が手塚の視線の先を見るが、誰もいない
手塚は呆然としていた


「あの声は……誰だ………」

「!手塚……貴様まさか、何かを思い出したのか?」

「……………分からない……だが………」


額に手を当て、顔を顰める手塚を気遣わしげに不二が見上げる
真田は険しい表情で周囲を見回した


「くっ……真田弦一郎たるんどる!!
手塚が思い出したにも関わらず、己は思い出せんというのか!!」

「……お前んとこの副部長……本当に面倒な人だな……」

「だろ?」


日吉が心底面倒くさそうに切原に耳打ちすれば、切原もげんなりした様子を見せた
すると、千歳が声を絞りだした


「………女………の子?」

「千歳?」

「確証はなかと……けど……女の子の声………」

「千歳も思い出したん?」

「わからん。頭の中で……誰かの声がしとるったい」

「女の子の……声………」


手塚に続いて千歳の発言に、全員耳を澄ませてみた
だが、声は聞こえない
手塚も、徐々に痛み始めた頭に目を瞑った


「(………誰なんだ………お前は…
………俺の…………何なんだ!!)」


その時、それは唐突に、しかしゆっくりと手塚の奥底に感じた
何かが足元から這い上がってくる
いや、何か、ではない
それは間違いなく、恐怖、だった


「(!なんだ…………この感じ……)」


思わず周りを見渡す
それはこの場にいる全員が感じ取っているようで、顔色が悪い


「……なんか……来るC」

「……何かって…なんだよ………」

「チッ。めんどくせーことになってるぜ」

「アハハ〜。もう分かりきったことじゃん…」

「何だろう……このイヤな感じは……」

「………前にも……どこかで………?」







「「!!」」







「う…上だ!!」







越前の声で、全員が一斉に上を見上げた
その瞬間、息を呑んだ







ゴオオオオオオオオオォォン







「な……なんだよ…これ………」






「バ……バケモノ…………」







空を、胸に孔が空いたバケモノが覆い尽くしていた








fin.
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