頂を目指す二ノ姫W

□刻まれた時と
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「………“―――”に、どうしても聞かなければならないことがあるんだ」

《…………》


目の前の彼女は、無表情だった
まるで、何を言いたいのかを分かっているようだった
同時に覚悟を決めた目をしていた
生唾を呑みこんだ手塚は、まっすぐ彼女を見つめた


「……“―――”。答えてほしい。お前の事だ」

「お前が隠してやがる事、包み隠さず全部話してもらうぜ」


手塚に続いて跡部が口にした言葉に、彼女は眉を顰めた
畳み掛けるように幸村が口を開いた
それは、この疑問の確信だった






「あの………黒い着物を着た姿のことだよ」






《………っ!!》


明らかに、彼女の顔色が変わった
幸村が手塚に視線を向ける


「先に俺達からいいかい?合宿の事なんだけど」

「ああ。全国前の……跡部から話は聞いている。話してくれ」

「ありがとう。ねぇ、“―――”
俺、あの時の、合宿最終日のことを思い出したんだ」

《!!》


口に手を当て、目を見開く彼女
幸村はスッと目を細めた


「その様子だと、やっぱりアレは勘違いでも夢でもない
なら、答えは出たよ






君は、死神…なんだね






「えっ………幸村?」

「な、何の話してるの?」


幸村の言葉に困惑を隠せないジャッカルと菊丸
跡部が怪訝な顔をした


「テメェらは思い出してねーのか?」

「お、思い出すもなにも……何の話をしてるんだい?」

「そーっスよ。“―――”先輩がシニガミ?とか、意味わかんないっス」


大石と桃城も首を傾げている
海堂は桃城の態度に苛ついていたが、乾が抑えていた
今はややこしくしたくない
跡部は柳眉を顰めた


「青学は思い出してねー奴が多いじゃねーの。氷帝は樺地だけだぜ」

「立海もジャッカルだけだ
恐らく、あの時気絶した者たちは覚えていないのだろう」

「もっとも、死神の説明は聞いていないはずだから覚えているも何もないがな」


柳と乾が静かにそう言えば、跡部も納得した様子だった
その間、彼女は一言も話さなかった

手塚は彼女から視線を逸らさず、その心中を読みとろうとしたがやはり読めない


「……俺は跡部と不二から、合宿中の顛末を聞いた
初瀬とお前が、死神、と呼ばれる者であることを
そして、あの胸に孔のあいたバケモノのことも」

《………》

「それと同時に、俺はもう一つ、知ったことがあった
お前と同じように、黒い着物を着た男性と出逢ったんだ」

《!!》


それは、九州に腕の治療をしに行った時の事
そこで出会った彼に、手塚は助けられたのだ
手塚もまた、遠い九州の地で胸に孔のあいたバケモノ、虚に襲われていた
それを、石動森と名乗った男性に助けられ、死神であることを告げられていた


「だがそれも、ついこの間まで忘れていたが……」

《…………っ》


唇を噛み締め、苦渋の表情の彼女
その様子に、手塚たちはこれが真実であることを確信させられた
これが、彼女が口を噤み、隠していた事実の一端


「……教えてくれ、“―――”
お前が隠していることを、俺達に」

《……それを言って、何になるの?》


彼女は初めて声を発した
その声は冷え切っていた
手塚たちを、完全に拒絶していた
それはいつもの彼女からは想像もつかないほど冷淡だった


《私の正体を思い出したことは計算外だったわ
まさか貴方たちの霊圧がこれほど強くなるとは思ってなかった
私の見通しの悪さが原因ね

でも、思い出したからと言って
貴方たちに1から10まで話さなければならない義理は無いわ》

「………っ」


その目には、これまで共に戦ってきた仲間はいなかった
まるで自分に仇なす敵でも見るかのような目だった
これほど、強い瞳を持った彼女をこれまで見た事が無かった
その空気に呑まれかけた手塚だが、それでも拳を握り、自分を奮い立たせた
このままでは終われなかった




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