頂を目指す二ノ姫W

□遠ざける壁と
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「わかりませんよ、そんなこと」





それを言ったのは木手だった
確かに、彼は桜に出会ってまだ数日だ
桜と長い間過ごしたわけでも、彼女のことを知っているわけでもない
だからこそ木手が言葉を発したことに驚いた
少なくとも、彼には彼女と共に生きる決意などないはずだ
彼はただ記憶を取り戻したいだけにすぎなかった
だが、木手は驚くべきことを口にした


「……それでも…貴方が抱えていることを知りたいと思いました。少なくとも私はね
何故こんな風に思うのかは私にも分かりませんが、
貴方と共に生きる覚悟とやらが、出来ているみたいですよ」


その目には嘘も、冗談もなかった
真剣な瞳はそれが本心であることを表していた
桜は絶句していた


『…何を……言ってるの………?貴方は…』

「俺も同じっスわ」

「財前」

「桜さんとは会ったばっかやけど、ほっとけないっスわ
せやから、覚悟は出来てるっス」

「財前……」

「先輩らはどうなんスか?
謙也さんなんか、ヘタレやからビビってるんとちゃいます?」

「アホ言うなや!!俺かて覚悟は決まってんで?」

「謙也〜。無理してるんちゃう?」

「うっさい侑士!自分こそどないやねん!」

「こっちは当たり前に決まってるわ
桜とは長い付き合いなんやで?」

「だな!」


忍足従兄弟も、向日も、大きく頷いていた
鳳も、日吉も、覚悟を決めていた
千石も、あの亜久津さえ、その目には覚悟が見て取れた
そのことに、桜はありえないと言葉を失っていた
その桜の傍らに、千歳が座り込んだ


「……もう、諦めるばい
ここにいるみんな、覚悟を決めてしまったと
時間は関係ないっちゃ。みんな、桜が好きなんばい」

「そうやで!!ワイも桜姉ちゃん大好きやー!!」

「あ、ちょっと…」


遠山が桜に思いきり抱きついた
それに不満げな顔をする越前が引き離そうとするが上手くいかない
嘆息した越前が真剣な目を向ける


「………俺も、桜先輩のこと、好きっスよ……
だから、一人で抱え込まないでほしいっス」

『………』


手塚は、華奢な桜を見下した
それと同時に、思い出した記憶を一つ、心に刻んでいた
九州にいた頃、彼が自分に伝えた言葉















出来ることなら、このまま平穏に過ごしてほしいと思っています



それが、ずっと昔から願っていた我らの願いですから



でもそれと同じぐらい





桜様にも幸せになって頂きたいと、思っているんですよ
















あれは彼の本心だろう
そして、手塚も思っている
心の奥底から感じていたのは、只々大切な彼女を慈しむ感情だった


「頼む、桜。話してくれ」

『………』







「お前の支えに、なりたいんだ






お前を、護りたいんだ」









fin.
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