頂を目指す二ノ姫W

□焦がれた夢と
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勉強部屋、と呼ばれた場所は、その名前とはかけ離れた場所だった

空座町にある駄菓子屋に案内されて目を白黒させた彼らは
そのまま店の中に案内され、その地下に通された
地下にはだだっ広い荒地がありさらに驚かされた
ちなみにその荒地にはゴツイ体つきの男が畳を敷いてくれたので、全員そこに腰を下ろした


「……こんなとこがあったんスね……」

「っていうか、おかしいでしょ」

「せやなぁ。建築基準法とか色々どうなってんねん」

「気にする所はそこかよ」


興奮気味に見回す赤也に越前はため息をついた
白石も頷きながらそう零し、跡部が思わずツッコんだ
手塚は姿の見えない桜に落ちつかない様子だった
浦原を意味も無く睨みつける
桜は義骸を着る、と言って店の中に消えたのだ


「……そんなに睨まないでくださいよ国光くん」

「…………すみません」

「まぁいいっスけどね
じゃあ桜さんが来るまでに、アタシの事でも話しておきましょうか」


その言葉に、全員の視線が浦原に向いた
浦原は飄々とした笑みを張り付け、影になって見えない双眸を微かに鋭くさせた


「さて、と。みなさんは桜さんが死神だという事はご存じなんスよね」

「………一応」

「俺達が生きているこの現世と呼ばれる世界以外に、尸魂界(ソウル・ソサエティ)という死後の世界がある
そこに住む魂の調律者……そういう話でした」

「んで、死神は死んじまった奴等を成仏させんのと…
あの……虚とかいうバケモノを退治する役目を持ってるんだったな」

「まぁ、概ねそういうことっス
まず自己紹介からいきますね



アタシは浦原喜助。桜さんと同じ、死神です」



「!!」


あの現れ方といい、ある程度予想はしていた
だがこうはっきり言われるとやはり身構えてしまう
しかし浦原は困った顔をして
「まぁ元と言うか、ちょっと特殊なんですけどね」と口にしていた


「……元?」

「ああ、気にしないでください。それほど重要な事ではないので
多分こっちの方が君達にとって大事だと思うんスけど


桜さんと血縁関係はありません」


「!」

「……では、」

「そうです。叔父、というのは嘘です。すみません国光くん」


手塚にそう言って頭を下げた浦原
手塚は怪訝な顔をしていた


「……そう、だったんですか。そのことは……父と母も?」

「………いいえ。彩菜さんたちは知りませんよ
桜さんが動きやすいようにと思っただけですから
もっとも、アタシの助けがなくても桜さんなら一人でもそつなく出来たでしょうが」

『あら、そんなことないわよ喜助。色々助かったわ』

「!!」


桜が着流しを着て降りて来ていた
その後ろには初瀬もいて、手塚たちに暢気に手を振る
桜の登場に全員の背筋が一気に伸びた
彼女はまだ堅い表情をしていた


『現世は住民票とか面倒なものが多いからね
貴方がいたおかげで楽に進めたわ』

「ですね。学校に入る時も世話になったしさ
記憶を根こそぎ消すってのも別にいいけど不測の事態が起きるとも限らないしね」


まぁもう起こってんだけどね〜と初瀬は頬を掻いた
畳に正座する桜は真っ直ぐな目をした


『それで、どこまで話したの?』

「アタシが死神だってことと、桜さんと血縁関係はないって話までっスね」

「じゃあ全然だね
というかさ、手塚くんたちは本気で浦原と桜ちゃんが親戚だって思ってたの?」

「………まぁ」


肯定すれば、初瀬はあり得ないとばかりに目を丸くした
口を曲げて浦原を指差す


「どう考えたってこんな胡散臭い男と桜ちゃんが親戚なわけないじゃん
血が繋がってるなんて生命の神秘でしょ」

「……確かに」

「財前」


思わず頷く財前を白石が窘める
浦原は気にした様子も無く笑っていた


「アタシもちょっと無理があるかなぁ、とは思ったんですけどね
まぁ、皆サンが純粋な子どもで良かったですよ」

『はぁ………』


息をついた桜は彼らの顔を見回して肩を落とした


『さて、何から話せばいいかしらね』

「そりゃ、何で現世に来たか、じゃない?」

『………そうね』


長い話になる、と桜は目を伏せた




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