頂を目指す二ノ姫W

□焦がれた夢と
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それはある意味、奇跡の所業だった

自らの願いと、それにつり合う対価を払うことによって願いを叶える

対価は何を支払うか、支払った後に分かる為それ相応の覚悟が必要だが

それだけの価値があった

そこで桜は、愚かにも願った

不老不死を願うことよりも、もしかしたら愚かな願いかもしれない











『私は……幻視によって視えた多くの未来を変える為に…
多くの人の元に行く為に…



魂を引き裂き、形をもたせた』



「…ど、どういう意味だ………」

『………私が複数存在する、ということ』

「!!」

『けれど、ただ複数いるというわけじゃないわ
魂を引き裂く前の私の力は引き裂いた人数分に分けられているの
だから力は格段に低いわ』

「…………それは……お前も…か
お前も………引き裂かれた魂の1つ…なのか?」

「!!手塚!!」

「それは…………」

「………正解っスよ。国光くん」

「!!」

「今君たちの目の前にいる桜さん
彼女もまた、元の桜さんからわかれたうちの一人っスよ
分かりやすくすれば、“芙椅”さんっていう名前があります」

「全国大会の日に私と一緒にいたオレンジ色の髪の子がいたっしょ?
千石くんじゃなくて
実は彼の傍にも桜ちゃんがいてねぇ
その人は壱威さんって言うんだよ」

「………それじゃあ、僕達のことを、桜は見たのかい?」

「そうなりますね」










魂を引き裂いた桜はそれぞれ幻視した者たちの元へと向かった

最初は遠巻きに見守り、助ける事ができればいいと思っていた

けれど、流れに入らなければ流れが変わらないことが分かってしまった

だから賭けではあったが、桜は覚悟を決めた

手塚の幼馴染として、存在する事にしたのだ











『………私は、幻視の為に貴方たちがどのように生きていくのか
誰が試合をし、どちらが勝つのかをかなり知っていたから…
本当は一緒に居てはだめだと分かってたの
でも……どうしても、自らの身をさらさなければならないと分かって…それで………』


桜は顔を俯かせた
彼らの視線が痛くなった
自分が、どれほど愚かな事をしたのか分かっているから余計に
流れを変えないように、運命に逆らわないようにしてきた
それでも、彼らにとっては不快だろう
嫌悪感を感じずにはいられないだろう
その視線が、怖いと感じる自分が、この上なく不快だった















「………お前が俺達について視たことって、何だったんだ?」





跡部が、変わらぬ表情でそう言った
それに、桜は呆気にとられた
だが跡部のジッと桜を見つめる視線が外れない
桜は仕方なく、言いづらそうにだが口にした


『えっと……虚に…襲われるビジョンよ……
リョーマが入学する前から…
そして入学してから本格的に襲われる人と回数が増えて…
……そして最後…全国大会終了後に虚に…全員……殺されるビジョン………』

「!!」


息を呑む声がした
桜は、思わず手を握った
それを聞いた跡部は、驚くべきことに一人笑っていた


「そうか……






礼を言うぜ桜。俺達を守ってくれて






『………っ』

「!!」


桜は言葉を失った
どこにも陰りの見えない、真っ直ぐな言葉だった
彼の心そのものだった
跡部はいつも通り、自信に満ち溢れた顔をした


「お前が何を考えてやがるか分かるぜ
試合の結果が分かってて後ろめたいとかそんなトコだろ
別にそんな事気にしねーだろ誰も。いや、そこの木手は知らねーが」

「…………別に、彼女が青学に肩入れしたなどとは思いませんよ
そもそも、アレは我々の力不足の為です
それを未練がましく他人のせいになど致しませんよ」

「ほう。それは悪かった」


眼鏡をクイッと上げた木手に、跡部が笑った


「言っておくが、これ以上お前が考える必要はねぇ
これは俺達の問題だからな。だから、そう考え込むな」

『……………ええ』


もう何度も彼らに救われている
こんなありえない事を、彼らは受け入れてしまう
それは、列記とした彼らの稀有な力だ

桜はずっと、こうした彼らに支えられて生き永らえている


「……!!」

「桜……」


何かが頬を滑っていった
温かい、それでいて濡れている

自分が涙を流したと、理解した時には目元を手塚に拭われていた
自分は、泣いていた
それに驚くも、心はどこか澄んだように感じていた
それも全て、彼らのお蔭


『(………ありがとう)』


そう言わざるを得ない


彼らの真っ直ぐな瞳が、彼女を赦してくれていたから





fin.
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