頂を目指す二ノ姫W

□悲しき決別と
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桜は唇を噛み締め、手塚を見上げた
絶望を目の前にしたようなそんな表情で、桜は声を震わせた


『…アリスだと判明した子どもを守るために
学園から逃げる親さえいるのよ……
貴方たちの家族だって、貴方たちをわざわざ学園に入学させたいとは思わないわ……
貴方たちは一人じゃない。心配してくれる人がいるのよ!』

「!!そんなこと、わかってるっつーの…」

「それでも……桜のこと、大切なんだよぃ」

『……っお願いだから………馬鹿なこと言わないで!






……テニスが…出来なくなってもいいの!!







その声は、まるで今にも泣き出しそうな声だった
そんな桜の不安定な声は終ぞ聞いた事が無かった
この短時間で、随分と常の桜とは違う彼女を垣間見た
これが、重荷を人知れず背負っていた桜の、本当の姿なのかも知れない
重責に押し潰されそうになっている
だから、その荷物を持ちたいのだ


「……テニスは、確かに好きやわ」

「せやな。けどな、自分のことはそれ以上に好きなんやで」


柔らかい笑みを浮かべた白石に謙也も大きく頷いた
財前が無表情で淡々と言う


「謙也さんがまさかこないに堂々と告るとは思いませんでしたわ」

「……財前っ!!今めっちゃ真剣なとこやったんやで!!」

「赤い顔で言われても説得力ないで、謙也」

「侑士!!」

「ま、大体そんなとこだよな」

「そうですね。俺も桜さんのこと大好きですから一緒にいたいですし
テニスと比べるような事でもないですよね」

「……鳳………お前よく恥ずかしげもなく言えるな」

「じゃあ日吉は桜さんのこと嫌いなの?」

「………そうは言ってない」


にわかににぎやかになった勉強部屋に、初瀬も浦原も呆気にとられた
桜は、呆然と騒ぐ彼らを見ていた
ふと気づけば頭に掌の温かさを感じた
見上げれば跡部がいつもの尊大な笑みとは違う柔らかい表情を浮かべていた
その表情に驚いて、桜は目を瞠った


「悪いな、お前には色々と気苦労をかけてるな」

「……まっさか跡部君の口からんな言葉が聞けるとは…………」

「アーン?初瀬。テメェ喧嘩売ってんのか」

「いやいや滅相もない」


手を振る初瀬に鼻で笑った跡部はぽん、と桜の頭を軽く叩いた


「家族には分かってもらう
俺たちがお前を大切だってことも含めてな
まだまだガキだが、それでもお前を思うこの気持ちに嘘はねぇ」

「なんじゃ、跡部。抜け駆けはイカンぜよ」

「まったくだよ。俺達だって同じ思いなんだから」


仁王が跡部の肩を引けば、後ろで幸村が腕を組んでいた
誰もが、全員同じ目、同じ顔をしていた
決意に満ちた、覚悟を決めた目だ


「ところで、木手はいいの?
今しか言えないと思うから嫌なら言っておけば?」

「…………先ほども言いましたよ、彼女と共に生きる覚悟ができた、と
本当におかしな話ですがね
それに無理をしてまでそのアリスとやらを無くす必要性を感じません
アリス学園とやらにも興味はありますからね」

「……フシュゥゥゥゥゥ。信じられねぇっス」

「信じてもらわなくて結構
ただ、私は誰も行かなくても行くということです」

「君が行くのに僕たちが行かないわけないだろう」

「っちゅーことで、なんや?
ここにおる全員アリス学園に行くっちゅーことかいな」

「無論だ。桜を一人にはさせん」

「……思ったんだけどよ
アリス学園には桜じゃない桜がいるんだよな?」

「それわかりづらいよ。まぁそういうことだよね
ってことは桜ちゃんとはお別れかぁ
……あれ、結構深刻じゃないこれ」

「まぁ、魂を分けたってことだから、ある意味桜と同じだよ」

「ま、どんな桜でも俺は好きだけどよ」

「何かっこつけてるんスか丸井先輩!!」

「さすが丸井君!!マジマジかっこE〜」

「………ジロー…起きてたのかお前」


活気づく彼ら
その表情にはこれからの事への不安は微塵も感じさせなかった

初瀬と浦原は口を閉ざし、微動だにしない桜にそっと視線を向けた




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