頂を目指す二ノ姫W

□悲しき決別と
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『(何が……起きているの………)』





こんな結末は

こんな始まりは識らない

こんなことになるなんて思いもしなかった
いや、考えないようにしていただけか。そして


『(…やっぱり…………嬉しいの?)』


共にいると言ってくれた彼らが……
例え“私自身”ではないとしても共にいると言ってくれたことが
そう。優しいなんてものじゃない
お人好しな彼らの言葉に、桜は柄にもなく涙腺が緩みそうになるのを寸でのところで堪えた
魂を分けた関係か子どもっぽくなってしまったが
桜は1000年以上という長きにわたって死神として生きてきた
涙は早々見せられない
けれど、彼らの言葉の一つ一つが、彼らの言葉と重なった
それが、嬉しくて悲しい。欲張りな自分に腹が立つ


『………っ』












みんなで考えよう。ここからの脱出方法を






桜が無理してるなんて事は始めから分かっていたんだ






ほんまに大切なんや。せやから頼ってや






それでも俺は、俺達はお前と一緒に居るぜ













唐突に、その光景は現れた
彼らの、運命という名をつけて
彼らの道筋は、間違いなく今、書き換えられたのだ
桜が来ないでほしいと願った、運命が


『(…………ごめんなさい…)』


もう、逃げる事は出来ないのだろう
第一、彼らがそれを望まない
彼らは、多くのモノを捨ててでも、桜と共にいる未来を選択してしまったのだ
これは彼女にも伝わっているハズ
桜は、一つの決断を下した






『…………………わかった』






「「「!!」」」


桜の声は嫌に響いた
全員の目が桜に向けられる
桜は、胸中に渦巻く様々な感情を押し殺し、それを口にした






『……貴方たちを、アリス学園に送り出すわ』






「桜様っ!!」

「……いいんですネ。本当に」


初瀬の咎めるような声音を遮り、浦原が低い声で問いかけた
桜は拳を握るが、しかし目尻を下げた


『……みんな、一度決めたら梃子でも動かないからね………』

「桜だってそうだろ?」

「まったくだ。頑固なのはお互い様だろう」


幸村と真田は当然だとばかりに笑った
誰しもが、後悔など微塵も感じさせない、晴れやかな表情だった
そんな表情を見てしまえば何も言えない
初瀬は乗り出した体を元に戻し、そっとため息をついた


『……それじゃあ、アリス学園の事についてはあちらからすぐに連絡が来るでしょうから
それまで待っていてちょうだい』

「そんなに早く来るの?」

『ああ、まぁその為には、まず私があげた物を消さないとね』


そう言って桜は柏手を打った
その瞬間、手塚や不二の腕についていたミサンガが掻き消えた


「えっ!?」

「ミサンガがっ!?」

『私があげた物は全て、霊圧を遮断する結界の術を込めてあったの
それがアリス学園から貴方たちの存在を隠していたのよ』

「それじゃあ、タオルとか…お守りとか?」

『ええ』

「あとはアレだね
例え気付かなかったとしてもあっちの桜ちゃんが言えばいいしね」

「??」

「……説明に行くのか?」


意味が解らなかったらしい彼らに疑問符を浮かべた桜だが
ああ、と合点がいったとばかりに手を合わせた


『そういえば言ってなかったわね
魂を分けた私たちは、でもある種繋がっている、と言っても過言じゃないの
いつもという訳ではないし、今はかなり回数も減ってるけど
記憶や幻視を共有したりもするから』

「あ、だから、学園にいる方の桜ちゃんも
君達と過ごしてた記憶を一応持ってるよ
つまり君達と過ごしてきた桜ちゃんだと思って大丈夫なんだぜ!」

「………喜んでいいのやらって感じだね」

「だよな〜」

『……そうよね…』


困った顔をした彼らに、桜も仕方なさそうに微笑んだ
そう簡単に受け入れられることではない


『ああ、それで私と彼女はさっき幻視と記憶を共有してるの
だから貴方たちのことも伝わってるのよ』

「へぇ。共有したかって判るのか」

『一応ね』


感心しきっている彼らを、思わず見回した
まだ、中学生の彼ら
だが、心は自分などより遥かに大人で、強い
何より、勇気に満ち、優しさに溢れていた


『(………ごめんね、みんな)』


そして、目を瞑る
もうここにいる理由はなくなった




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