頂を目指す二ノ姫W

□悲しき決別と
1ページ/5ページ





『………なんて言ったの、国光』


桜の声が、一段と低くなった
これほど冷たく低い彼女の声は、突き放され、記憶を消された時以来だった
初瀬もこれには身を震わせた
凄絶な、強大な存在に思わず息を呑む
しかし手塚は怯むことなく、内心は怯んでいたのだが、こう続けた


「断る、と言ったんだ
もし俺にもアリスがあるなら、俺はアリス学園に行く!」

「!!」

『………言っていい事と悪い事があるわ』


地を這うような声を発した桜は、その声と同様険しい表情を浮かべた


『言ったでしょう。幻視で見た、と
それが意味する事は正確に分かるはずでしょ
それなのに……学園に行くですって?』

「………ああ。そうだ
学園に行って、お前のすることを手伝いたい」

『………何ですって?』


桜の目が怒気を見せた
低く小さな声が感情を押し殺している
だが、それでも手塚は退かない


「このままアリスを無くせば、俺とお前の接点はなくなる……そうだな?
記憶を奪ったぐらいだ。関係を断ち切るつもりだったんだろう」

『……』

「だが、俺はそんなことは望まない」

『!!』


拳を握りしめた手塚は眼鏡の奥に真摯な色を宿していた
絶対に曲げない意志があった


「俺にとって桜は支えだった。大切な幼馴染だ
例えそれが仕組まれた事でも、俺にとってはそれだけが事実だし、これからもそうだ
俺はお前を支えたい。共に生きていきたいと思っている。だから」















「頼む。共に行かせてくれ」
















中学生の言葉とは思えない想いの籠った重い言葉だ
たかだか15年生きた程度の子供が発するには稚拙で
しかし真摯な言葉であった
だが頷くことは出来ない


『(運命を変えるということは代償が伴う)』


それも生半可なものではない
死神である彼女でも、払いきれるか
それなのに人間に払える訳はない
耐えきれるはずがないのだ
だから、手塚の言葉に頷くわけにはいかない
きっとこの言葉は彼の存在があるからだ
手塚国光という男のものではない。それなのに


「ちっ。手塚に先を越されたな」

「跡部!」


前髪を掻き上げ、心底悔しそうな表情の跡部は尊大に言い放った


「手塚に先に言われたのは癪だが、俺も言いたいことは同じだ
桜、俺もアリス学園に行くぜ」

『…景吾!』

「当たり前だろうが。お前の事を忘れる気はねぇ
それにお前ひとりに何もかも背負わせる気はねぇ
言っただろうが。お前を支え、お前を守りたいと」

『………』


押し黙った桜に、手塚は胸の奥に気持ち悪さを感じた
罪悪感というのか、苦しかった
だが、ここで引けばそれで終わってしまう
それは決して望んでいなかった
そしてそれは他の者たちも感じていたようだ


「……そうだね。僕も行くよ」

「不二」

「このままさよならなんて、納得できないしね」


淡く微笑んだ不二は、しかし有無を言わせない凄みを見せた
それに怯んだ裕太だが、彼もまた兄の言葉に同調するように頷いていた


「……俺も先輩達に賛成っス」

『リョーマ…っ』

「桜先輩を一人にはしないっスよ」

「……何かっこつけてんだよ」

「別に」


赤也に睨まれるリョーマだが飄々とそっぽを向いた
ムッとした赤也だが桜に向き直り真っ直ぐな目をした


「まぁ、俺も行くっスよ」

「赤也!」

「だって、副部長たちもそのつもりっしょ?」

「!!……当たり前だ」

「プリ」

「そうだね」

『何を……言ってるのよ』


桜の視線が揺れていた
動揺を見せる桜はどこか新鮮だ

そして彼らがそう口にするのもどこか知っていた
真田も、跡部も、不二も、自分と同じだからだ





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ