夜空を纏う四ノ姫4

□憐れな男
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山本は幻騎士に勝利した
時雨蒼燕流の総集奥義――時雨之化を編み出していた彼は
最後は父親が編み出した攻式八の型、篠突く雨で見事幻騎士を倒したのだ

跡部はモニターの様子に舌打ちをした

地面に倒れ伏した幻騎士は山本に投げかけた



《なぜだ。ボンゴレといい貴様といい…なぜトドメをささない……》

《オレ達は人殺しじゃねーからな》



そう笑って言う山本。それを無線で聞いていたツナは表情を綻ばせた
幻騎士は苦い顔をしてそれを聞き、だが低く唸るように言う



《……後悔するな…オレは白蘭様のためにいずれ必ず目的は遂行する》

《ああ。望むところだ》



すると、別の地点で囮を撃破していた桔梗が回線に入ってきた



《強運ですね、幻騎士…我々はミルフィオーレ一の剣士を失うところでした》

《桔梗か…》

《あなたの話は聞いています
ミルフィオーレ結成の立役者であり白蘭様の陰の右腕
あらゆる隠密作戦を成功させ
今回のような重要な戦いには必ず最前線に召集される
白蘭様が最も頼りにする男…》

《当然のこと……白蘭様は全てを見通しておられる
だからこそオレに奇跡をお与えになった
誰よりもオレを奇跡に値する人間として信頼しておられるのだ》


「(憐れな男だ……)」


もう一度、心の中で呟いた
これから起こることを、当然知らない彼はただ無垢な少年の様に白蘭に心酔している
だが、心酔しすぎた結果がこれだ
彼の本質を見抜けず、良いように扱われ、最後には壊される。白蘭自身に



《!!この炎…雲属性の桔梗の葉!?》



突如、幻騎士の鎧から葉っぱが生えた。それは紫色の炎を放出している
狼狽する幻騎士の耳に、桔梗の声が入り込む



《ハハン。悪く思わないでください幻騎士
役に立たぬ時に消せるよう雲の炎で増殖する
雲桔梗(カンパヌラ・ディ・ヌーヴォラ)を鎧に仕込んでおいたのです。白蘭様の命でね》

《嘘をつくな桔梗》

《嘘ではありませんよ。白蘭様のお考えです
あなたを猿として扱う時から指示されていたのです》



桔梗の言葉を嘘だと信じようとしない幻騎士
跡部は純粋に、ただ白蘭を信じる幻騎士に対して初めて同情した
彼をよく思ってはいなかったが、これではあんまりにも


「(……それでも、見捨てると決めたのは……………俺様だ)」


彼もまた一つ、跡部の罪だ
雲桔梗は幻騎士の全身を覆い隠すように茂り、どんどん成長していた
彼の命を、糧にして



《ぐああっ白蘭様がオレを殺すはずはない!!桔梗!!図ったな!!》


「ハハハ。相変わらず思い込み激しいな〜
幻ちゃんは本当によくやってくれたよ小さい器なりに
でも僕が飽きちゃったから、割るんだ」


白蘭の表情は見えない
だが容易に想像が出来る低い声に、思わずゾッとした
背筋を滑る冷たいものに鳥肌が立つ



《残念だな桔梗!!白蘭様は必ずまたオレを救ってくださる!!
この幻騎士こそが白蘭様の最も忠実なる僕!!


我は白蘭様と共にあり!!》


《幻…》



その瞬間、爆発音が響いた


「割れちゃったね〜」


本当に、皿を割ってしまった後のように
嫌、惜しむ様子がないからそれ以上に軽い口調の白蘭に
跡部はただ、そうですね、と相槌を打つしかなかった















「っと、ケルビム!!」

「……っ」


雷リスが電気を迸らせ、不二に突っ込んだ
不二は顔を顰め、躱すが微かに頬を電撃が掠った
すかさず白石は鋭く叫ぶ


「渦巻く怒り(ラッビア・チェ・ギーラ)」


螺旋状にスパークする電流が不二に迫る
雷属性の特性は硬化。周りのビルを巻き込み、金属が螺旋へと組み込まれ大きくなる
当たればひとたまりもないだろう


「……ならっ………アイ!!」


雨鷹は青色の炎を纏い、凄まじい速さで滑空する
それと同時に不二はもう一つの匣を開匣した
中からはレイピアが出てくる
雷リスの動きを鈍らせようとする雨鷹に狙いを定めて跳んでくる晴鷹を
不二はそのレイピアで払った


「……そういえば、武器匣も持ってたんやなぁ」


残念そうな白石の声。彼は武器匣を持っていないのだ
これで押し勝てるかと手に力を込めるが


「……そういえば、俺全国大会の時に不二に勝ったんやったなぁ」


しみじみと思い返す白石に、不二は眉間にしわを寄せた


「いきなりなんだい?また勝てるとか思ってるんじゃないよね」

「……いやぁ、まぁ、そういう事やなぁ」


ゆったりとした口調の白石が取り出した匣
橙色に王冠の装飾をしたそれに、不二は歯噛みした





→Un afterword
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