夜空を纏う四ノ姫4

□消えた幼馴染
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『……幻騎士。死んだわね
まぁ、山本武に負ける程度の男なら必要もないし』

「………」

『それに、ミルフィオーレの勝利は決まってる
ただ、どうやって勝つかを演出しているだけにすぎないわ
どう?いいシナリオでしょう?』

「………」


目の前に対峙する男は始終無言だ
だが、それは何も意図的に無視している訳ではない
満身創痍の為に声が出せないのだ


手塚が桜と遭遇したのは、幻騎士が敗れてすぐの事だ
囮を壊しに来た桜を迎え撃とうと思った時には、すでに彼女の匣が開匣されていた
イオ、と名付けられた匣兵器、夜狼(ルーポ・ディ・ノッテ)が手塚の眼前に迫り、牙を剥いていた
辛うじて避けはしたが、腕を掠り、鮮血が舞った
次には黒い銃弾の雨が降ってくる

彼女の夜属性の性質は何故か4つ
そのうち、マーレリングによって引き出される一番強い性質は「助成」
その力を高め、支える性質だ

銃弾の威力を上げる夜の炎に、手塚の傷が増えていく
だが、桜は表情を変えなかった
そして、夜狼の咆哮が弾と合わさり、凄まじい衝撃となって手塚に衝突した
桜は、ただただ面白そうに、人を殺すことの出来る武器を向けていた


『ちょっと、何も言ってくれないの?』

「……もう、やめるんだ桜」

『……またそれなの』


心底煩わしそうに、桜は髪を掻きあげた
全く違う、彼女の10年の歳月の長さを物語る表情
手塚は歯を食い縛った


「……こんなこと“お前”が望んだことじゃなかっただろう」

『いいえ』


強い否定。手塚は桜の瞳を見て、押し黙った
怒りがあった。悲しみがあった。震える、心があった


『“ワタシ”が望んだことよ……そして、白蘭が……
白蘭だけが、私の望みを叶えてくれる』

「………桜」

『誰にも、邪魔させない……っ』


キッと目をつり上げた桜が腕を上げる
それを合図に夜狼が突進してくる
逆立つ毛が、赤い炎を纏っていた


「!!(まずい……っ)」


咄嗟に開匣し、出てきた銃を横に撃った
その衝撃でその場所から離脱する
手塚が立っていたそこを夜狼が凄まじいスピードで疾走した
突っ込んだ先のビルと道路が破壊されていく


「………嵐の炎……分解か」

『ええ。そうよ』


戻って来た夜狼の毛を優しく撫でる
今はもう黒い炎に戻っていた





モニターでその様子を見ていた白蘭は楽しそうに笑った


「いつ見ても夜の属性は凄いよね〜」

「さくらもすごーい」

「夜の属性の特徴は4つ、だったか?」

「ああ、そうだ」


ザクロの問いに跡部が頷いた

夜の属性は他の属性と一線を介した異質な存在だった
その有する特性は“反射”“助成”“消失”“変容”だ
特に変容は、夜の属性が他の属性全ての匣を開けられることに由来している
変容とはその名の通り、他の属性の炎に変わるということだ
以前に跡部は夜の属性に疑問を持ち、桜にこう聞いていた








「夜の属性の性質に“変容”とあったが
それはお前が他の属性を持っているということじゃないのか?」

『ええ。そういう意味ではないわ
匣にはそれぞれ1つの属性しかないでしょ
人間は複数の属性を持てるけどね
でも、夜の匣は私がそう意識すれば他の属性の炎になって
その性質を出現させることが出来るのよ』

「……つまり、一つの匣ですべての属性を出す事が出来ると、そういう意味か」

『ええ。そうなるわ』









今、夜の匣である夜狼は、嵐の属性の炎を身に纏い
嵐属性の性質である分解でビルと道路を破壊した
今、手塚が相手にしているのは、全ての属性だということだ


「(………そもそも、お前が桜に勝てる道理はねぇ)」


たかだか数か月の戦闘経験を学習しただけの自分達では逆立ちしたって桜には勝てない
元々、どんな時でも彼女に勝てたためしがないのだ
自分が認めたライバルの窮地に、跡部は口を引き結んだ




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