夜空を纏う四ノ姫4

□ファレノプシス・パラドックス
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「正一君!!死なないで!!」


ツナは血まみれの入江に叫び続けた
その声が届いたのか、入江は意識を取り戻した

桔梗に攻撃され怪我を負っていた獄寺は彼の顔にひび割れていたが眼鏡を戻してやる
だが、その声に覇気はない。うつろな目を開いた入江はうわ言のように言った


「……チョイスは…どうなった…?」

「!」

「…………」

「……ゴメン。負けたんだ…」

「なんだって!?そんなことは許されない!!」


言いづらそうなツナの言葉に入江は勢いよく上半身を起こした
荒い呼吸だがお構いなしだ


「勝たなきゃ…!!勝つんだ!!まだだ!!戦うんだ!!」

「おいお前っ。動くな入江!!」

「チョイスバトルが終了致しましたので全通話回線を開放します」


チェルベッロが無機質な声でそう言った
入江は切羽詰まった声で叫ぶ


「白蘭サン!!僕はまだ戦える!!」

「ダメだ正一君!!動いたらお腹から血が!!」

「てめー死にてーのか!!」

「死んだっていいさ!!白蘭サンに勝てるなら喜んで死ぬ!!」


文字通り血反吐を吐きながら、必死の形相でそれを口にした入江にツナは絶句した
彼には、入江が何を言っているのか分からなかった
自分が死んでもいいなんて、それを口にできる入江の心境がツナには理解できない


「……わからない……わからないよ






なぜこんなになってまで白蘭を倒すことに執念を燃やすのか





わからないよ!!






「…え?」

「確かに白蘭は悪い奴だし、7が奪われたら大変だって言葉ではわかるけど…しっくりこないんだ……
人類のためとかいくら理屈を聞いても…自分には遠い話のようで、ついていけなくなる時があるんだ…」

「…………」

「10代目のおっしゃる通りだ……
過去に戻るためってならいいが、この時代のことを片付けるために
わざわざガキのオレ達が戦うってのはいまいちピンとこねぇぜ…」

「…………そうか…そうだったね……」


困惑した表情のツナと獄寺の言葉に、入江は息を吐いた
肝心なことを、忘れていた様だ


「僕はこの10日間、忙しさにかまけて話すことを放棄してた
いや…手塚君達が大丈夫だったから…
君達ならわかってくれると勝手に思い込んで甘えていたのかもしれない…」

「正一君教えてよ。どうしてそこまでして白蘭を…?
白蘭と一体何があったの?」

「…すべて話すよ…いやむしろ聞いてもらいたい……
話は11年前にさかのぼるんだ…」


それは入江の数奇な運命の物語だった

事の発端は、ひょんな事からランボを助け、そのお礼に木箱をもらった事から始まった


「え!?ランボ…かんけーあるの!?」

「そこにはランボさん宛の10年バズーカの弾も入っていたんだが返すタイミングを失ってね…
それが何なのか知らずに部屋の掃除中に誤って足に落としてしまった…」

「おいそれって…!!10年バズーカに被弾したってことか!?」

「ああ…僕は10年後の自分と入れかわり、初めて未来へ行ったんだ」


入江は10年後
アメリカの工科系大学に通っていた未来の自分と入れ替わってしまった

そこで、白蘭と出逢ったのだ

タイムトラベルの事実に怖くなって校舎から逃げ出した入江は白蘭とぶつかった










――いててて…

――……大丈夫かい君?

――あ…日本語…

――やっぱり日本人か…
その年でもうここに来てるなんてかなり優秀だね、イリエ君♪

――!?

――…の弟君かな?

――あ…すみません!!











「この後しばらく走って僕は過去に戻った」

「白蘭と初めて会ったのは未来だったんだ!」

「……話自体はいたって普通のタイムトラベルだな」

「ああそれだけだ…あの時はまだ白蘭サンも『ただの人』だったしね
実際過去に戻った僕は白蘭サンのことなどすっかり忘れてタイムトラベルをしたこと自体に興奮したよ…
でもその一方で自分の夢だったミュージシャンに将来自分がなってなくてひどく落ち込みもしたんだ…」


しかしミュージシャンになるという夢を叶えたいと思い、未来を変えようとした
過去を変えれば未来も変わる。未来は一つではない




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