BOOK

□この胸が止まるまで。
1ページ/4ページ


 






 私は堺田 悠(さかいだ ゆう)。


 冴えないごくごく平凡な
 女子中学生である。





 そんな平凡主義、
 自由主義者の私は

 朝っぱらから
 暇人の如く本屋さんにいた。




 本棚に綺麗に並べられた
 数え切れないほどの
 漫画や雑誌に、
 高校受験の資料集。



 鮮やかに描かれた表紙の漫画に
 目がくらむ中


 見たくもない資料を手に取り
 私が通うであろう
 高校の資料集を
 2000円も出して購入した。



 これだけのお金を
 その資料に出すくらいなら

 いっそ、
 あの綺麗に飾られた表紙の
 漫画にでも
 費やしてしまいたいくらいだ。





 だけど



 この私の頭に
 そんな余裕はない、

 資料無しでの入試合格なんて
 無謀なことだろう。


 はたまた

 資料有り気で頑張ったとしても
 怪しいところなのに…。

 「あれ?悠じゃん。」


 そう言って声をかけて来たのは
 中学卒業までの三年間を
 親しく過ごした幼なじみ
 田口 俊介(たぐち しゅんすけ)

 通称、たぐっちゃん。



 「朝っぱらから
  お宅も暇人ねぇ〜。」と

 オカマ口調で
 ちょけるところをみると


 どうやらたぐっちゃんも
 受験という局面に
 まだ
 追いは感じていないらしい。




 私みたいな奴が
 一人くらいはいて

 ほんの少しホッとした。






 「たぐっちゃんは
  何見に来たの?」


 そう私が尋ねるなり
 たぐっちゃんは
 少し照れ臭そうに


 「そりゃあ…おめ
  入試の資料をだなぁ…」と

 声をくぐもらせた。




 「たぐっちゃんでも
  勉強するんだな。」


 「そりゃ受験ともなりゃ
  頑張らねぇと
  俺だって、将来ニートは
  目指したくねぇ!」




 わざと茶化すように言った
 私の言葉に対して

 たぐっちゃんの口から
 案外真面目な[将来]という
 言葉を聞き

 微弱な焦りと
 少しばかりの驚きを感じた。
 そして


 たぐっちゃんの手に
 がしりと握られた資料集にも
 驚いた。




 それは桜木高校と書かれた
 私が入試を受ける
 高校の資料だった。


 これには内心
 飛び上がるほど驚いた。




 親しい仲ではあったけど
 たぐっちゃんと
 進路のことを話合ったことは
 一度もない。



 まさか同じ高校を
 目指していたとは…



 たぐっちゃんは
 気づいていたのだろうか。


 いや、たぐっちゃんのことだ
 もし気づいていたなら
 我慢できず口にするだろう。




 なら…黙っていよう、

 そんで驚かせてやる。


 そうたくらむ私を尻目に
 たぐっちゃんは
 資料を購入した。









 私は今、
 一週間後に入試を控える
 受験生である。


 中学生でもない
 高校生でもない

 中高生。



 大人でもない
 子供でもない



 そのど真ん中に、私はいた。



 


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ