Pures

□す ま い る
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もう少しで夏が終わりそう。
時間も、何もかもが容赦なくて。

昨日よりも今日の方が。
君を抱き締めていた時間が、1秒でも長ければいい。
今日よりも明日の方がもっと、君を好きでいたい。






「いいよ、もうここで。」

『えぇから。送るっちゅーねん。』






君の帰り道。
いつもは暗い並木道を歩くのに。
信号機は点滅して、たいした意味も持たなくなるのに。
今日は






「気持ちのいい朝だね。剛といるからかな〜。」






別にね、引き止めるつもりはなかったんだ。
今から会える?って
1時間だけでも、一緒にいたいねんけどって。
それを待ち構えていたかのように
さっきまで降っていた大粒の雨が急に止んで。
湿った風が頬に当たって
触れたくなって、確かめたくなって。



僕はそんな風に君を
何の理屈もなく、自然に抱き止めていた。
心ごと、丸ごと、全部。



君が何も言わず、そっと腕時計を外したから
僕は君の腕をとってキスをした。


時が経つのは、同じ時空を漂っているから。
生きているから。
身体の先まで、そう実感して、喜びに震える。




そして、君のおはようで1日が始まる。






「ひょっとして、何か夢見てた?」

『んー?なんで?』

「なーんか、笑ってるみたいだったから。」

『見た…かも?』






濃いめのコーヒーに、たっぷりバターのトースト。






『うーん。うまい。昨日の夕飯、食うてへんのも忘れるくらいやなぁ。』

「えっ!?食べてなかったの!?言ってよ!」

『そんなん、夕飯食べてる時間があるんやったら…、』






最後まで言うのはやめておいた。
僕の頭の中にある、臭いセリフのレパートリーがなくなりそうだったから(笑)






『あ、そや。充電、充電〜♪』






当たり前の顔をして、君を胸に閉じ込めて。






『ほな、送るわぁ。』





仕事に行くまでの短い時間。
その時間さえも、僕にとっては大切。






「いいよ、もうここで。」

『えぇから。送るっちゅーねん。』






君の帰り道。
今日は明るい空の下。
僕は君と同じ、普通の朝を迎えた。






「気持ちのいい朝だね。」

『2人でおるからやんな?』






一瞬だけ、強い風が吹いた。



夏の終わりの、清々しい朝。
僕は君を背に
また新しい朝を見つけるだろう。
君よりも一足先に
君の眩しい笑顔に向って
そう、今日に誓って。











-*fin*-


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