Lovers

□air
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彼はどんな人?と聞かれたら


あたしは迷わず“空気のような人”と答える。


あたしに必要なのは、酸素と剛だけ。


そう言い切れるくらい大切な人。


たとえ会話をしていなくても


傍にいるだけで安心するし、幸せだと思える。


それはきっと剛にとっても、そう。


忙しい中でも時間を作っては、会いに来てくれる。


そっと寄り添って目を瞑ったり


時にはキスをしたり、手を繋いだり。



その時間が短くても、一緒にいられるだけで良かった。


長さなんて関係ない。


ただ同じ時を過ごしていられればいい。


他に何もいらないよ。







『んー、テレビ消して。』

「あ、ごめん。眠い?」

『んー。』

「ふふ。おやすみ、剛。」







洗い物をしようと立ち上がったあたしの服の裾を


剛はしっかりと掴んでいた。







「えっ?」

『あかんて。ここにおって…。』







剛はそのまま、夢の中へ吸い込まれていくようだった。


たまに頬がぴくっと動く。


まるで赤ちゃんの寝顔。


今も同じ時間が流れてる。


見ている世界は違っても


同じ場所にいる。






どうか、あたしと同じ空気を吸って。


あたしの胸で呼吸して。


あたしの酸素になって。







「ほんとに赤ちゃんみたい…。」







服の裾を掴んだまま、離そうとはしない。


どこにもいかないのに。


剛を置いて、あたしはどこへも行けないんだよ。


いっつも、剛の後ろを歩いて来たから。


あたし1人じゃ、呼吸もできないんだよ。







ねぇ、剛?


今日できなかった分の洗い物は





明日一緒にやるんだからね?


それまでは、このままあたしの胸の中で


素敵な夢を見ていて。


その後は2人で手を取り合って


同じ世界を生きていこう。














-*fin*-


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