Lovers

□ふ た り ぼ っ ち
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『はぁー、またか…。』




静まり返った部屋で1人。


自分の声が響いて聞こえた。






恋をしていなかった頃の僕だったら、こんな気持ちにならずにすんだのに。


会えないのは仕方ない。


僕も、彼女も子供やないから。


仕事で会えないのは、仕方のないこと。


せやけど…。




仕事を終えて、この部屋に帰ってくると、寂しさがいつもの何倍にも思えて。


その寂しさが、僕から笑顔を奪っていく。


僕がこんな仕事してへんかったら、こんな思いせんでも良かったんかなぁーって。





『今から寝ても、1時間くらいしか寝られへんな…。』




不意にギターを手に取り、何を弾くでもなく、ただ音を鳴らす。


右手の親指と人差し指の間に納まっているピックが、ぽろっと床に転がり落ちた。




『あっ…。そうや。』




ピックの裏側には、幼稚園児が書いたような字で“つよし”と書かれている。


いつだったか君が僕からピックを奪い取って、勝手に書いたヤツや。


自然と自分の口角が、上がっていくのに気付いた。




『そういえば…。』




僕は、思い付いた言葉や音符を書く専用のノートを広げた。


その1番後ろのページに…










「でーきた!見て見て!」

『誰やねん、これ。』

「えー、誰って剛だよ。つーよーしー。」

『いやいや、全っ然似てへんで。っていうか、このブツブツ何!?(笑)』

「これは、髪の毛の刈り上げ部分。」

『この毛虫みたいのんは?』

「…まゆげ。」

『…おまえ、美術1やろ?』

「違うもん!ほら、あたし天才肌だから。ピカソ、みたいな?」

『んふふ。ピカソは書いた絵に矢印引っ張って、名前なんか書かへんわ(笑)』

「うるさいなぁー。剛の似顔絵だから“剛”って書いただけじゃん!バカ。」

『怒んなやぁー。はいはい、こっち向きぃー。』




パシャ




そう、そう。


そんでこの後、膨れっ面の君をデジカメで激写してやったら、更に怒ったんやったな(笑)




デジカメの中には、魚のウロコのアップやら、沈む直前の夕陽やらが収められている。


その中に数枚、あくびをする、くしゃみをする、


そして、とびきり笑顔の君の写真。




気付かんかったけど、この部屋には君がいたという、確かなあとがたくさん残ってる。


僕、何を寂しがってたんやろ…。




『さてと、仕事行かな。』




帽子をかぶり、車のキーを持ってドアに手をかけた。


その時、僕の携帯に君から1通のメール。




― 今日は昨日より寒いよ(>_<)暖かくして、風邪ひかないようにね☆ ―




『ありがとう…。』



僕はマフラーを首に巻いて、仕事へ出掛けた。




どこにいたって、何をしていたって、君はいつも僕の傍にいてくれる。


どんなに冷えきった暗い部屋にだって、そこらじゅうが君でいっぱい。


今日も明日も、明後日も。


いつでも僕の、傍におってな?








-*fin*-


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