頂き物
□ココロ★オレンジ
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真っ白な顔、赤い鼻。
右目にダイアの模様があり、首まわりに襟巻トカゲのような襟のついたブカブカの白い木綿の服を身にまとい、先の尖った靴でステップを踏みながら、サーカス小屋のまわりを、僕は歩いていた。
「よぅ、ピエロ! 今日も気合いはいってるな! まだ開演まで時間あるぞ?」
サーカスの名物、空中ブランコの達人のトゥクさんが話し掛けてきた。
そう、僕はピエロ。とにかくおどけて、お客さんに笑ってもらうのがお仕事。この格好の時は、話さないことにしてる。普段の僕ではなく、別人になるために。
相変わらずステップを踏みながら軽く頭を下げ、満面の笑みを浮かべてみせると、トゥクさんは苦笑して、サーカス小屋の入り口の方を指差した。
「開演まで暇だろ? あそこで早く来過ぎた客を相手しててくれないか。これから最終調整をするのに、早く入れろとうるさくて」
団長はなんて言ってるんだろ?気になった僕は手でシルクハットをかぶる振りをした。団長はいつもシルクハットをかぶって人前に現れるからだ。
トゥクさんもわかってくれたようで、苦笑しつつ小屋の裏側にとめてあるトレーラーを指差した。
「団長なら、まだあの中だ。今日の衣裳選びに夢中だよ」
どうせまたタキシードになるのにね、とジェスチャーを含めて肩をすくめてみせると、トゥクさんも全くだとばかりに声をたてて笑った。
トゥクさんに言われたように、開演までの時間、僕はただおどけながら入り口を行ったり来たりしていた。ここで芸を見せる訳にはいかないから、仕方ない。
開演の時間が近づく。もうそろそろ中に引き上げようかと思った時、自分と同い年くらいの男の子が歩いてくるのを見つけた。
親や付き添いの人はいないようだ。それに、男の子は寂しそうな、それでいて悲しそうな空気をまとっていた。
どうしたんだろ?心配になって男の子に近付き、笑顔で手招きをする。僕を見て少し笑ってくれたけど、やっぱり元気がなかった。
その様子が気になりつつも、中に入っていったのを見届けて、僕も準備に戻った。