頂き物

□ユメ
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カリカリカリ…


静かな部屋に、小さく響くシャーペンの音。


一生懸命レポート写しに取り掛かる佐川に対し、机で本を読んでいる黒河。

せかせかと忙しそうに鳴るシャーペンの音に混じり、少し早めのページを捲る音が響いた。



「…黒河」
「ん?」

「お前にさ、俺の将来のユメって言った事あったか?」

「んーにゃ、初耳だよ」

「…知りてぇか?」

「いや、別に」

「即答かよ…」



バッサリと切り捨てられた佐川は、がっくりとテーブルに突っ伏してしまった。


「だって、どうせ非現実的なユメなんだろう?」



クツクツと喉を鳴らしながら『世界征服とか?』と、付け足した。
すると佐川は、突っ伏していた身を起こし、ブルブルと首を横に振った。



「いやいや、違ーよ!」

「あれ、違うの?」

「俺のユメはなぁ……まずは警察官だっ」



自信ありげに、黒河に人差し指を突き付けてそう言った。

意外と真面目なユメに、目を丸くする黒河。



「なんで?」
「いや、なんでって…」
「何を企んでるんだい…?」
「酷ぇッ!」



あまりにも悲しい黒河の反応に、涙がでそうになる佐川。
ちょっとスネかけた佐川をなだめながら、黒河は聞いた。


「でも、『まずは』ってなんだい?」
「…デカに」

「え?」

「本当は、刑事に…なりたいんだ」

「刑事…」


だから、まずは警察官だ と付け足す佐川は、体育座りでイジケていた。


「佐川…ごめんってば」
「俺だって、ちゃんとユメぐらいあらぁ」

「じゃあさ、じゃあさ。なんで刑事になりたいんだい?」



どうにかして佐川に機嫌を直してもらおうと、次の話題を出す。
すると、佐川は少し黙って考え込んだ。


「俺…」
「うんうん」

「警察官から刑事に…んで、刑事よりももっとエライ人になって…」
「う、うんうん…」

「んで、日本警察を我がモノに…」
「世界征服とたいして変わらないじゃないかぁッ!!」



へらっと笑う佐川の顔面に、黒河の分厚い本が飛んだ。

どうやら鼻に本の背表紙がブチ当たったらしく、うっすら涙を浮かべながらソコを手で覆う。


「痛ぇな!!!!」
「煩い!」

「鼻が陥没したらどうしてくれんだ!」
「いっそ陥没してしまえ!」

「そういうお前はどうなんだ!!」
「…は?」

「だから、そういうお前のユメはなんだっつってんの」
「…僕?」

 
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