頂き物

□ユメ
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「僕のユメ…」
「そうだ」

「えっと」
「なんだよ」

「……ない」
「は?」



今度は佐川に変わり、黒河が椅子の上で体育座りをし始めた。


「どういう意味だ?」

「だ、だからまだ…」

「ユメ、決まってねぇのか?」


すると、黒河はコクリと小さく頷いた。


「まだ俺のほうがユメがあっていいじゃねぇか」
「だって…!」

「よし、今から決めるぞ」
「…はい?」

「ユメだよ、ユメ」
「今から決めるの…?」



そうだ と頷く佐川を、ポカンと口を半開きにして見る黒河。
一方佐川は、何が黒河に向いているかと考えるのに意気込んでいた。





「飲食店の経営」
「無理だよ。食べ物ひっくり返しちゃう」

「小説家」
「文才ないし」

「学校の先生」
「無理!生徒が間違った道を歩むことになる!」

「いっそ、俺と一緒に日本警察を我がモノに…」
「却下!」



そう言った刹那、立ち上がった佐川の拳が黒河の頭に落ちた。


「痛いッ!」
「じゃあ何になりたいんだよ!」

「…人様のお役に立てる仕事」

「んなの、山ほどあるわ!」



ふぅ と小さく溜め息をついた佐川に、あるモノが目にとまった。


「……ん?」
「佐川?」


佐川が手に取ったソレは、先ほど黒河が投げた本だった。


「“怪人二十面相”?」
「あ、うん。推理小説で有名だろう?面白いよ」

「推理小説…」
「…どうしたの?」

「スイリ…推理……探偵…」

「う、うん…?」




ピコン

その時、佐川の頭上で豆電球が光ったような気がした。


「見つけた」
「え?」

「お前、探偵になれ」
「は?」

「そうだそうだ、この前俺の無くしたシャーペン見つけてくれたもんな。探偵みたいにさ」
「そうだっけ…」


うんうんと頷く佐川の話は止まらない。



「んでさ、美人の女の助手とか雇ってさぁ」
「え、ちょっと」

「事件解決!人の役に立てるし」
「そ…そうだね」

「ピッタリ、適職じゃねえか」
「うん…」



そうかな? と、少しノリ気な黒河。

一方佐川は、別に黒河の職業が完全に決定したわけでもないのに何やら一安心していた。



「あ、佐川。早くレポート写さないと」
「んー。晩メシ食ってってもいい?」

「別に構わないけど…」



そして、『晩飯を食って帰る』から『今晩泊めろ』に変わるにはたいして時間はかからなかった…



 
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