夢幻神話─本編─
□第七章
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「僕は此処を中心とした周辺ビルに人が残って無いか見てくる。明日香は戦闘班の回復を中心に援護してくれ! 攻撃型と翔が前線に居るなら回復役が必要だからね」
「うるせーよ」
翔がぼやいた。本来『地』は回復が使える中堅型──だが本人の性格上他の2人の回復が出来ないだろうという判断だ。
「わっ判りました。速人さんも気をつけて……」
「大丈夫。現役陸上部を舐めないで」
心配そうな明日香に速人は茶目っ気たっぷりにウィンクすると、階段を駆け降りていった。
「明日香、暫く俺達が時間稼ぎをする妖の分析を頼む!」
「はっはい」
視線を妖から外さないまま、翔は明日香に言った。
「貴之と薫は此方側で闘ってくれ。明日香は何か判ったら、大声で言ってくれ」
「翔はどないするつもりなん?」
「俺は反対側に移って其処を拠点に攻める。出来るだけ情報が多い方が良いからな」
屈伸をしながら言う翔を呆れた様に見る貴之。彼は更に問い掛けた。
「どうやって移動するん?」
「こうやって」
シレッとした表情で翔は2、3歩後ろに下がった。助走をすると大きく踏み切って飛び上がり──そして妖の額を踏み台にして反対側のビルに降り立った。予想外の翔の行動に驚いた貴之は思わずフェンスに駆け寄って、怒り狂った妖と涼しい表情の翔を交互に見つめた。
「ちょ、おま!」
「そっちは頼んだぞ、貴之、薫!」
翔の言葉に呆れた表情の貴之は、一時の間を置いて不敵な笑みを浮かべた。