夢幻神話─本編─

□第七章
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「翔!」

 貴之の叫び声に振り返ると翔が傷だらけで倒れていた。

「大丈夫か、翔!」

 よろめきながら身体を起こすと、翔は笑顔を浮かべて片手を上げた。彼なりの無事を伝えているのだろうが、その姿は痛々しさが伝わった。

「薫、行って下さい! 明日香は私に任せて」

 釣られたように頷くと、薫は戦場に飛び出した。傷だらけの翔は勿論、貴之も相当息が上がっていた。

「おぅ、戻ったか」

 薫に気づくと、貴之はいつもの笑顔を浮かべた。薫はぎこちなく頷くと貴之の前に立ち、妖に向かいあった。

(あたしが……やるしか……)

 6人の中では1番経験が浅く、術も覚えたばかりのものが多い──そんな自分が何か出来るのだろうか。

 薫は右手を上げ、攻撃体制に入った。それでも彼女の表情は冴えない。

 ふと千尋の言葉が彼女の頭をよぎった──出来る出来ないの問題ではありません。やるかやらないか、ではありませんこと?──

(そんな事はあたしだって判ってる。でも、あたしが無理だと思ってそのあと可能になった事ってあったか?)

 薫は心の中で首を振った。彼女の手が僅かに震えた。眼前に妖が迫ってくるのが見えた。それでも薫の頭には術が思い浮かばない。

(ごめん、やっぱり……)

「エェ加減にせェよ!」
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