夢幻神話─本編─
□第六章
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「翔くん!」
振り返ると、息を切らせた葵がいた。翔はソッとピアノの蓋から手を離した。
此処は第2音楽室──嘗て全国一の生徒数を誇ったこの学園も、少子化の影響で年々生徒数が減っていた。この第2音楽室はそんな影響で使われなくなった、言わば空き教室なのだ。
「もぉ〜放課後に数学教えてって言ったのに勝手に居なくなるんだから」
葵は不満げに口を尖らせた。
「……そうだっけ?」
約束した覚えの無い翔は暫く思考を巡らせるも、思い当たる節がなかったので考えるのを諦めた。
「それより翔くん、よく平気だよね」
「ぁ? どういう事だ?」
訳が判らないといわんばかりに眉寄せる翔に、葵は驚いた様に目を見開いた。
「一ノ宮学園の七不思議を知らないの? 『幽霊ピアノ』っていって、夜の9時過ぎに誰もいない筈の第2音楽室から、ピアノのメロディが聞こえてくるの。そのピアノを聞いた人は高熱を出して倒れるとか交通事故に遭うとか……」
引き攣った顔で、さも恐ろしげに語る葵の表情に、翔は一瞬呆気に取られたが、直ぐに吹き出した。
「神崎、ソレは俺だ。俺が夜に此処でピアノを弾いてるんだよ」
「……は?」