夢幻神話─本編─
□第六章
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シトシトと雨音が響く。灰色の閉ざされた空間に降り注ぐ雫の下で、色鮮やかな傘が街を行き交う──翔はそんな通りに面した喫茶店の窓際に腰を下ろしていた。
「ホンマにうっとうしい程の雨やな」
貴之は奥の部屋から出て艶めいた溜息を吐くと、カウンターに身を乗り出して外の様子を伺った。今は6月──世間は梅雨なのだ。
「今何考えとるん?」
貴之が暫く外を眺めていたが、僅かに視線を動かし、ショーウインドーに映った翔の表情を見つめた。翔は黙っていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「……アイツの事」
貴之は納得した様に小さく頷いた。雨音が微かな音の連なりを持って店内に響いた。
「もう2年になるんやな」
「……あぁ」
相変わらず翔は生返事を返した。彼の漆黒の虚ろな瞳は道行く人を映すだけだった。貴之は深く溜息を吐くと再び口を開いた。
「あのさ、翔は──」
彼の言葉を乾いたドアチャイムが遮った。音の直後、二人の少女が店内に入ってきた。