夢幻神話─本編─

□第一章
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 1−Bの真新しい看板がぶら下がる教室。

 しわがれた声が響く教室で一心不乱に黒板の内容を写す者、諦めて机に突っ伏して寝る者──普通の高校ならよくある光景だ。

 チャイムが鳴り響くと真新しい制服に身を包んだ少年少女たちは一斉に顔を上げた。そして退屈な授業の終わりと知ると、二マリと頬を緩めた。

 教卓に立つ中年の教師も、チャイムの音に顔を上げて時計を見た。そして少々擦り切れた国語の教科書を閉じて口を開く。

「んじゃ今日はこれで終わるけど明日は国語の小テストするからなッ!」

 えーっという生徒達の悲鳴のような叫びを上げる生徒たちにも関わらず、中年教師は教室をサッサと出て行った。

 口々に不満を言う彼らとは裏腹に、ミルクティ色の髪の少女は表情を変えずに教科書をしまっていた。黒渕の眼鏡をとり、頬杖をつくとそのまま視線を窓の外に移した。彼女の瑠璃色の瞳には、散り始めた桜に囲まれ空へ向かって高くそびえ立つ時計台を映していた。

「今朝は変な夢だったなぁ……」

 少女はボンヤリ視線を宙に漂わせながら、ポツリと独り言を洩らした。

(只の夢の筈なのに……妙に印象的で頭から離れない)

 それはまるで何かを彼女に伝えようとしたような──大切なメッセージを含んでいる、そんな気がした。
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