夢幻神話─本編─
□第五章
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「……ほな次行くで。アンリ4世の即位で始まったのは何朝?」
「ブルボン朝」
静かな喫茶店に響くのは男女の声だけ。
「じゃあブルボン朝の最盛期を築いたのは?」
「ルイ14世」
「……おい」
「ほんなら、ルイ14世の孫フェリペ5世の即位によって起こった戦争は?」
「えっと……スペイン継承戦争?」
「バッチリ♪大分覚えたなぁ。ほな次は……」
「いい加減にしろーっ!」
耳障りな世界史用語が気に食わなかったのか、翔が声を上げた。その声に女──藤堂薫は不満そうに翔を見た。
「だってしょうがないだろ? 明日からテストなのに勉強してないんだから」
「せやせや。耳元で英語が聞こえんだけ有難く思わなアカンで」
貴之がヒラヒラとプリントを振って付け加えた。その様子を明日香はクスクス笑いながら見つめていた。
「あのな、そういう問題じゃ……」
「何の騒ぎですの?」
乾いたドアチャイムを鳴らしながら千尋が入店した。翔が千尋に助けを乞う為に顔を向けた。
「千尋、お前からも何か言え。お前だって此処まで来て世界史の勉強なんてしたくねぇだろ?」
千尋は三人の顔を交互に見回して暫く黙っていたが、やがてゆっくり薫に歩み寄った。