夢幻神話─本編─
□第八章
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(チェックメイト、だと?)
結界の外で、翔は怪訝そうな表情で明日香の言葉を聞いていた。チェスで詰みを表す言葉──今の彼女に勝利の一手があるとは思えない翔は、内心首を傾げた。
「おい明日香、大丈夫なのか?」
「大丈夫です!」
明日香は強く断言すると、素早くその場を離れた──彼女が居た場所に、妖が鎌を降り下ろした。
(一体どうするつもり、なんだ?)
子供がまるで新しい遊びを見つけた時のような、好奇心と高揚感に翔は目を光らせた。自分も背中からの出血でろくに動けず、結界のせいで中に入れない──何も出来ない状況だからこそ、状況を冷静に見る事が出来た。
(相性ではお前に敵う属性は無いが、問題はどうやって妖の動きを封じる、か。見せて貰おう、お前の考えを!)
心無しか、気を失った加奈子を支える手に力が入った。
「『我を護りし水の女神レイアよ、その偉大なる力を我の前に示し我が前に立ちはだかる妖を滅せよ』!」
明日香が高らかに叫ぶと、屋上一帯の風が彼女を包むように集まった──そしてゆっくり瞳を開けた彼女の表情は、自信に満ち溢れていた。